誤算、伝染中 | ナノ
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まあ、とりあえずオリエンテーションのことは後々考えるとして。

俺は生徒会の活動を終えて、ごはんも食べ、部屋に着いたあと、
キッチンを前にして、別の事で悩んでいた。


千歳に何かしらの御礼をしようと思ったが、何をすればいいのかと。


「何しようとしてるの」


キッチンの前に突っ立ってる俺を見て、真澄が聞いてきた。
リビングの方からネクタイをほどく音とブレザーを脱ぐ音がする。
うーん俺もまず着替えなきゃな。ずっとジャージのままだし。


「何かお菓子作ろうと思うんだけど何にしようかなって」

「今から?」


確かに今から作り始めたら完成が深夜になっちゃうかもしれないけど。
早いうちに借りは返さねば。


「そんなの売店で買って来ればいいのに。俺買ってこようか?」

「いや、あげるものだから・・・」

「は?」


真澄が驚いたようだった。なんだよ、俺が手作りするってこと別に珍しくないだろ。
こうみえてお菓子はある程度つくれる。形が完ぺきとはいえないけど。
あとたまに焦がすけど。


「だれに。侑介?」

「いや、・・・。まあ、誰でもいいだろ」


なんか千歳っていうのが嫌で、言葉を濁す。
だって千歳に何かあげるとか恥ずかしいじゃん、真澄にそれを言うのもプライドが邪魔をする。


「・・・・会長か。」


なんでわかった。


「足やって貰ったから、何かお礼しようと思ったんだけど何が好きだったかなって思って」


ばれたからには仕方ないので、素直にそう言う。そもそもあいつ甘いもの食べるっけかな。
まあ、甘さ控えめに作ればいいか…。
フロランタン、カップケーキ、ブラウニー、スノーボール・・・。

材料的にフロランタンでいいかな。


「別に手作りじゃなくてもいいんじゃない。」


着替え終わった真澄が俺のところにやってきた。
「足も悪いんだし」と俺の怪我を気遣う。

別に足はいーんだけど・・・。


「んー、まあ、そんな時間もかからないし…。あまったら俺も食べれるから。」


俺もフロランタン好きだし。
よし、さっさと作ってさっさと寝よう。


「真澄も味見手伝ってね」

「…わかった。」


なんか腑に落ちない感じの声で返事をした真澄。
なんでちょっと不満そうなんだと思いながら、さっそく手を洗ってお菓子作りの準備をする。

真澄もあんまり甘いの好きじゃないからな。
色々調整しないと。



2時間後。



出来上がったのはチョコフロランタン。
割と見た目も悪くなくて、ある程度満足する。


我ながら美味そう。
切り分けたそれを、さっそく真澄のところに持ってった。


「真澄ー、見てみて。美味しそうじゃない?」


ソファに横になりながら参考書を読んでいた真澄
俺の声に起き上がりながら微かに笑った


「上手だね。」


俺もそう思う。
まだ冷めてないから少し柔らかいけど、どうだろう。
一番心配なのは味。


さっそく一切れ指で挟んで、真澄の口元に出来たてを持っていった。


「口開けて」


真澄の足元らへんに腰かけながら真澄に笑いかける
すると、何故か真澄の身体がピシッと固まった。
黒い瞳を大きく見開いている


「?なに」

「・・・いや、」


首を傾げる俺に、なんでもない、と言いながら参考書を床に置いた真澄
ギシ、とソファを軋ませながら俺の手に顔を近づけてきた

・・・あ、ていうか真澄にあげる前に自分で味見すればよかったな。
確認する前に、見た目が綺麗な事に嬉しくてこっち来ちゃった。

そう後悔したものの、真澄が俺の手首を掴んでしまってストップとも言えない状況に。

微かに真澄の唇が指先に触れて、この時初めてこれあーんってやつなんじゃ?と気づいた。


「・・・どう?」


パク、と口に入れた真澄にドキドキしながら聞く。
なんか今更恥ずかしい。真澄が一瞬固まった理由わかった。あーんは嫌だよな。


「美味しいよ」

「ほんと!?」

「うん。甘すぎないしサクサクしてて。」


よかったー!
真澄が美味しいって言うってことは、美味しいんだろう。たぶん。
あいつの口に合うかはわかんねーけどな


「食べてみた?」

「まだ。味見する前に食べさせちゃった。」


エプロンを外しながら、へへ、と笑う。
思いのほか早く完成したからさっさとラッピングして風呂入って寝よっかな。
今日は疲れた。体育もあったし。

ふぅ、とため息をついたら口の前にフロランタン一切れを持って来られた。


そして、


「あーん。」


と棒読みで俺にそう言う真澄。
ただ、表情はどこか悪戯っぽい

え。


「いや、自分で食べれる。」

「人にはやっといて、自分の番は恥ずかしがるの?」


顔を反らしたら、空いてる方の手で正面を向かされた。
目の前には口元を緩めて微笑んでる真澄。なに、その無邪気な笑顔は。


「ほら、早く。」


あー、もう・・・!
急かされて半ばヤケクソになりながら、ガブッ、と齧りついた。
目を開けたままなのも恥ずかしいから、目を瞑りながら。

お、美味しい…!
自分で作っておきながら、その感触と美味しさに目を見開く。


「美味しいね!」


自画自賛だけど!思わず口に出てしまった。
俺の様子に笑う真澄。

えー、あいつにあげないで俺全部食べちゃおっかな…。
それじゃ本末転倒か。


「もう一切れ食べる?」

「いや、自分で食べる」


またあーんをされそうになったから、慌てて皿から取って口に入れた。
なんだよ、お前あーんとかそういうキャラじゃないでしょ。


「真澄もラスイチ食べちゃって。」

「ありがと」


俺ってお菓子作りの天才なのかもなぁと思いながら空いた皿を持ち上げる。
大抵は買ってきたお菓子食べるんだけどね。
たまーに、シフォンケーキだったりクッキーだったり作ったりしてた。

今年からは侑君も寮にいるから、差し入れ出来るなぁ!
今度作って持ってってみよっと!!




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bkm