誤算、伝染中 | ナノ
06


「とりあえず、千歳には感謝してるよ。あと、睡眠の邪魔してごめん」


なんかこの変な空気が嫌で、立ち上がった。
なんで2人がこんな雰囲気になってんの、意味わかんねえ。勘弁してよ。


「…なんだやけに素直だな」

「うるせーな。さすがに御礼しないのも悪いから今度してやるよ…今度な」


借り作りっぱなしも嫌だし。
空気を変えるためとはいえ、改めてこんなこと言うのめっちゃ恥ずかしいな。きっと千歳は今頃ニヤニヤして俺を見てるに違いない。


「…足、大丈夫なの?」


俺の体を支えながら心配そうな顔をしてきた真澄。何だよさっきまであんな顔してたくせに。しかも千歳へのあの態度。


「へーきだって。もともとそんな痛くないから2、3日しないうちに治ってると思う。千歳がやってくれたんだし」


歩いてもあんま痛くない。
そう言うと、真澄が千歳に視線を向けた。渋々と一礼をする真澄


「…ありがとうございました。」

「ああ」


俺も千歳に軽く手を振っておく。
つかなんで真澄が俺の代わりにお礼言ってんだよ〜、昨日の紫乃さんに対して謝った時と一緒じゃん。まじでお前は俺のなんなの。


「会長、今日の生徒会もサボらないでくださいよ」

「サボったら次こそお前に殴られそうだからやめとくわ」


さっきの雰囲気はどこに行ったのか普通通りに戻ってる真澄。切り替えが早いのね。良いことだ。


「じゃーな、千歳」


結局佐々木先生(保健医)来なかったな〜。千歳いて良かった。
保健室を後にすると、即こっちを振り向いてきた真澄。

え、なに。


「何してたのさっき」

「はあ?」


さっき?
いつだよ。


「なんで会長に押し倒されてたの」


説明を受けてから、あぁ、と思った。
やっぱりそこは引っかかってた訳ね。
だからその怖い顔やめろ。


「まじであれは不可抗力。俺があいつの胸ぐら引っ掴んだら勢い余ってドターンっていうラブコメ」


ラブはいらないか。コメディコメディ。真澄を置いて歩きながら説明をする。

確かにあんな場面見たら不快な思いするかもしんないけど、別に良くねえ?俺が何してようが。
千歳と何かってのは考えらんないけど。


「…ふーん」


真澄が腑に落ちない感じで相槌を打った。やめろよ、なんか怖いだろ。


「つかこの足だと着替えまじで面倒くさいな。今日一日ジャージで良いかな」

「別に良いと思うけど汗かいたんじゃないの」

「あ、そうか」


汗くさいか俺。
さっきやべーくらい汗かいてたしな…

てかちょっと待てよ、さっき千歳と割と近かったけど俺臭くなかったのかな。さすがに汗くさいのは恥ずかしい


「え、ちょっと真澄。俺汗くさい?」


胸部分のジャージを引っ張りながら真澄の腕を引く。は?となる真澄


「なに急に」

「いいから」


ついでに臭くなかったらジャージでいようと決める。一応制汗スプレー振りまくるけどさあ。

するとしょうがないなといった感じで真澄が顔を寄せてきた


これもこれで恥ずかしいけど…


すると、俺の引っ張ってる部分じゃなくて首筋に顔を寄せてきた真澄。
サラリと、真澄の細めの黒髪が首筋を掠める。

うわ…!
そっち行くか…!?


「首とかぜってーくさいじゃん!」


めっちゃ汗かいたんだから!
なんで直接そこ行くんだよ

さすがに恥ずかしくて首を抑えながらあとずさる


「かいでって言ったの涼じゃん」


そんな俺を見てフッとおかしそうに笑った真澄。そうだけどさあ…!


「…で、どうなの」

「全然だよ。本当に汗かいたの?」

「体育での俺の汗の量知ってんだろ」


くさくないならジャージのままでいーや。目立つだろうけど。


「真澄はいいよな。運動もできるから」


俺みたいに汗だくでゼーハーせずに、爽やかにスポーツをやってのける。
さっきのサッカーだって、お前は経験者か?って聞きたくなるほど簡単にやってのけていた。正直イケメンだと思った。

それに一部が興奮して発狂するからね。僕も蹴ってほしいって奴いたな今日は。


「…会長には負けるけどね」


真澄が苦笑した。
…確かに千歳はなんでも出来ちゃうけど…

でもなんでそこで千歳出てくんだよ
次期会長のプレッシャーか?副会長さんよ。


「千歳関係ないだろ」


何故か俺がムッとした。
たぶん、そんなこと言うなんて真澄らしくないから。

すると、一瞬目を丸くする真澄
けれどすぐに、ふふっと照れくさそうに笑った


「ありがと」


…うるせー馬鹿。

御礼言われるほどじゃないし。
俺は真澄が理事長の息子っていうプレッシャーがあることも知ってるし、お前が努力家なのもわかってる

だから誰かと真澄を比べるなんてことされるとすっげーむかつく。例えそれを本人がしたとしても。





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bkm