05
しばらくしたら、千歳が氷嚢を外し湿布と包帯まで巻いてくれた。これまた完璧に。
勘弁してくれ…俺お前に借りがあるとか嫌なんだけど。
「キツくねえ?」
「…ぴったりだよ。つかお前寝なくていいのか」
キツくもなく緩くもない包帯の締め具合を確認しながらたずねる。もうほとんど授業終わりじゃん。
「次の時間に寝るから別にいーわ」
当たり前のようにそういった千歳。よくそんな簡単にサボれんな、先生も千歳なら仕方ないって思ってるんだろうか。
「涼も一緒にサボる?あそこのベッド意外と広いぞ」
「死ね」
誰がお前なんかと寝るかっつーの。
即答した俺に「容赦ねーな」と呟く千歳。本気で言ってるわけでもないんだからどうでもいいだろーが。
「あ、そういえば聞いてよ。」
「ん?」
「朝侑くんに頬っぺたつねって貰っちゃった」
誰かに話したくて仕方なかったことをニタニタしながら千歳にも伝える。朝真澄にも言ったけど「そう」で終わった。雑すぎだろ。
だってやばくない!!?
俺の頬をつねるだなんて、幼少期以来だよどうしたの侑くん!!!
「しかも笑顔つき!俺もう嬉しすぎて50度くらいまで熱上がったと思う!!!」
50度まで熱出たら死んでるとかそういうツッコミはいらんからな!
興奮しすぎてバンバンと長椅子を叩きまくる。そんな俺を無表情で見つめる千歳。
そして、
「へえ」
と心底どうでもよさそうな返事を俺にしてきた。
…っんだよ、その、つまんねーリアクションはよ…!
「もっと他になんかねえのかよ!!」
隣に座ってる千歳の胸ぐらを思い切り引っ張った。予想外の行動だったのか、グンッと近づいてきた千歳。勢いあまって俺に衝突する
いてえっ!!
「っ、馬鹿かお前」
お互い長椅子に倒れこむ羽目に。
少し身体を起こした千歳が俺を見下ろしながらそう言ってきた。
ば、馬鹿ってなんだーー!
後先考えてなかったことかーー!
「つか他にどんな反応すればいいんだよ」
俺の事を下敷きにしたまま聞く千歳。腕で自分の体を支えてくれてるから重くないけど、まずどけよ。端から見たら押し倒されてるように見えんじゃん。
「…良かったね、とか侑くんツンデレで可愛いねとか?」
「前半はまだしも後半そんな事いう奴いねえだろ」
「うるせえ!つかどけよ!」
「なんで」
な、なんで?
千歳らしからぬ馬鹿発言にギョッとする。いや、この体勢つらいだろ。顔は近いし、体はギリギリだし。つかなんでこんな近くで見てもこいつイケメンなの。顔整いすぎ。
「…お前相手じゃなかったら、普通顔真っ赤にして歓喜してるんだけどな」
つまらなそうな顔をしながら俺の顔に触れてきた千歳。おでこの噛み跡にも親指を這わしている
なんだよ、俺のリアクションがつまんねーってか。
「…幼馴染みを今更意識できるか」
時々意表を突かれることはあるけど、それ以外は何もない。
俺の言葉が気に食わなかったのか、千歳が眉を寄せた。
「あのなあ、」
『ガラッ』
千歳が何か言いかけたところで扉が開いた。
視線をズラす千歳。
俺は千歳に下敷きにされてるから、頭を動かしても千歳の腕が邪魔で見えない
佐々木先生かな。と呑気に推測する。
けれど違った。
「何してるんです」
少し低めのよく通る声。
その声に聞き覚えがあった。
ああ、真澄かと心の中で思う。
「真澄?あれ、授業は〜?」
チャイム鳴ったっけ。
わざわざ抜け出してきたのか?
千歳の身体を押し上げて俺も起き上がった。
入り口の方を見てみるとめっちゃ怖い顔をしてる真澄。
何に怒ってんだこいつ。
「先輩に随分な態度だな、真澄」
千歳も真澄の表情が気に入らなかったのかそう言った。つか、離れろって。目の前にお前の胸板がどアップなんだけど。
「…別に。いつも通りの顔ですけど」
嘘つけ〜。
お前いつもそんな人殺せそうな目つきしてねーだろ。
「千歳が俺の事押し倒してるから真澄が勘違いしちゃっただろーが…」
面倒臭くなってぼそぼそ千歳に囁く。
そりゃあ親友がホモホモしてたら嫌悪が湧くよな。仕方ない。俺だって千歳が他のやつとホモホモしてたらうぇってなるもん…
「千歳にはただ治療してもらっただけだって。ほら、足。…てかチャイム鳴った?」
真澄に証拠として丁寧に包帯が巻かれた足を見せる。俺の言葉にちらりとそれを一瞥した真澄。
「…もうすぐ授業終わりだし先生に言って抜け出してきた」
「心配性だな」
「でも来て正解だったみたいですね」
おいおい…
千歳の一言に珍しく食いついた真澄。真澄らしくない。
つか二人してなんかトゲトゲしくない?
なにこの雰囲気。
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bkm