こんな日が来ることに、怯え続けた自分がいた


もともと叶わない夢に恋をしていたんだ
当たり前だろう

でも、それでも、


どうせ夢なら、幸せな夢を見させてほしかった。





「ッ、はっ…ハァッ…!」


本気で校内を逃げ回る
体育館を出る前、俺を追いかけてきている津田が見えた


お前、そんなキャラじゃないじゃん
元カノに頬を叩かれても、『まあいいか、ほっとこ』って笑って済まして面倒くさいこと絶対しないヤツだろ


それなのになんで追いかけてくるの?
俺が親友だから?泣いたのが見えたから?

それなら余計、やめてほしい。


俺が惨めだ




「あれー?宮岡どうした?んなダッシュして」

「い、いや…ッ、ちょっと……」

「ハハハッ息上がりすぎだろ!まだチャイムなるまで数分あんぞ」


他クラスの友人が時間を知らせる
あと五分…
教室に戻るか、否か



「あ、津田だ。…いつ見ても男の敵だなぁ、おい」


「ッ!!!」



友人のその言葉に全神経が反応した
すぐにまた走って別棟へと逃げることにする



「はは、津田も走ってら。俺初めて見たかもー…って宮岡!?」



ほら、みんな驚いてるよ津田
体育測定ですら、『平均で良い』といって真面目に走んなかったお前だもんな。先生にすげー叱られてもヘラヘラしてたっけ。

なんなんだろうね。俺、津田から逃げてるのに結局お前のことばかりだよ。


「ミヤ!」


ついに声が聞こえる距離まで来てしまった

基本、書道室とか情報処理室とかばかりの南校舎は静かだからか
いや、違う、津田が確実に近づいてきてる


入れる部屋、どこだ


化学実験室…は絶対閉まってる、から、
会議室なら…!



「ミヤ!」

「なんで追いかけてくるんだよ!?」


鍵をして、ドアに背を向ける
バンッと、ドアを叩く津田を背中に感じて目をつむって叫んだ

手にはさっきの津田のマフラー
なんで俺はこんなに大事そうにもってんの



「…じゃあ、なんでミヤは逃げんだよ」


……んなの言えるわけねーだろ
ドア越しだと言うのに聞こえてくる荒い呼吸
お前、運動不足そうな感じだもんな。


「ミヤが逃げるから、追いかけなきゃって思った。…俺がそういうキャラじゃないの知ってるでしょ?」


乾いた声で笑う津田
知ってる、しってるから、俺は余計に苦しいんだよ
期待しそうで怖い
でもこれは親友同士だからなんだろ


「ミヤ、あのさ、ここ開けてくんない?」


コンコンとドアをノックされるが、首を横に振る
ダメだ、今絶対開けられない


「……なんなら蹴破るけど」

「無理だろ」

「やってみないとわかんないんじゃない?」


その瞬間、ガンッと強い衝撃が背中に伝わった
…ま、マジで蹴りやがったよこいつ


「ちょ、やめろよ、壊したらお前怒られるぞ」

「こんなときまで人の心配?ミヤって本当優しいね。でも今はそんなの気にしてらんないよ」


……怒ってるのか?
表情がわからない少し低めの声色は、どうなのかわからないけど蹴る力は益々強くなってる

嘘だろ津田
無理に決まってんじゃん、つか音でかいから先生来ちゃうよ

チャイムはとっくになっている

どちらにしても、サボりとして先生に怒られるだろうけど
でもドアまで壊したら……


「わ、わかったから、津田、ちょっと待って」

「開けるのが先」

「わ、かった……」


こんな強引な津田知らない
いつも飄々とマイペースに生きているけど、人にごり押しするような人間ではないはずだ

やっぱ、怒ってるの?
何に?


震える手で、鍵を開ける
すると、同時にドアが開いた



目の前にはいつもの津田

でも、他人のように見えるのは今こんな状態だから?


気まずい
つか、なんかもう嫌だこの空間が。


逃げたい。


視線を下げると、津田の足が視界に入ったけど驚いたことに上履きを履いていない


「ミヤ、俺、自惚れてるのかな」


ス、と頭に手が近づいてきて、思わず一歩体を退く
なんでそうしたのかはわからない

でも。これ以上近づかれたらなんかダメになりそうで


「……今のはちょっとひどい」


その言葉に顔を上げると、自嘲気味に微笑んでる津田
待ってよ、なに、その顔

なんでそんなツラそうな顔を津田がしてるの

俺が今津田の手から逃げたから?
…いや、そんなの津田が気にするはずがない



「ねえ、俺らって友達同士?」



次に津田から出た言葉は俺にとっては胸をえぐるのに充分な言葉だった

そんなこと聞くなよ
お前は俺を今どうしたいんだよ


「…それ以外、何があるの」


なにもない
俺らは本当にただの親友同士で
それ以外の何物でもない


でも俺は、一番この関係が嫌だった




「俺が、望んでた関係とか?」


そう言って津田が笑う

望んでいた関係?
意味がわからなくて首を傾げようとしたら、津田との距離が一気に縮まった


なっ……!?





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