「津田!?」


キツく俺を抱き締めてきた津田
突然の事に頭がついていかない

なんで俺抱き締められてるの
てか、津田の、体が俺に密着してる


どうして


津田の呼吸と熱を直接感じて心臓が止まりそう



「つ…」

「今は何も言わないで、俺の話を聞いてて」


…後で、俺を罵倒するなり殴るなりして良いから。そう津田は力無く笑った
けれど、その笑顔と真逆に、痛いくらい強く抱き締めてくる

津田の匂いが俺を包み込んで、呼吸するたびに津田が側にいると神経が叫ぶ


ズルイ。
俺がこんなにもしんどいの、津田は気づいてないの?


沈黙が支配する空間の中、津田がポツリと呟いた



「俺が倉庫でミヤの手を握りしめたとき、ふざけてでもいいから手を握り返してくれればなって思った」


そう囁きながら、大切そうに俺の手に触れる津田

俺が思った願いがそのまま津田の口から出てきて戸惑った
俺の気持ちでもよんでるんだろうか
それとも、なに、偶然、とか

やっぱり津田の指は熱くて、触れたところから溶けそうになる


それでも話を続ける津田


「いつまでも俺に一線を引いてるミヤに、いつも不満だった。他人との関わりの代わりに増えていったのはミヤに対する欲求ばっか」


ハハ、と投げやりに笑いながら、また体を強く抱き締めてくる津田
まるで、服の隔たりですらもどかしいと言っているようで心臓が痛い


身長差を埋めるように首を傾げて俺の顔を覗く津田が、俺の頬に触れる


「ミヤの、この白い肌に触りたかったし、ハグも、キスも、何もかも想像してた」


頬、唇、首筋、背中へと津田の熱い指先が滑っていって、甘い痺れが体を満たしていく


心臓なんて、もう意味わかんないくらい暴れまくってて。




「…引いた?俺キモいね」

「……引、かない」

「それもミヤの優しさかな、誰にでも優しいミヤ。その優しさが俺だけのだったら良かったのに」



津田が苦しそうに笑いながら肩におでこを擦り寄せてくる
俺はただただ放心状態


……津田、聞いてよ
俺今すごく浮かれてる

さっきまであんなに絶望で真っ暗だったのに、
お前の言葉でこんなにも明るい



だって、今の話ってつまり、さ、



「俺だって、お前が俺だけ見てくれればいいって、ずっと、思ってた」



声にならない声で津田にそう告げる
緊張で、口から心臓が出そう、でも、それ以上に幸せで

これって夢なのかな

背中に手を回すとビクリと体が跳ねた津田


それに笑いながらも、言葉を紡ぐ



「俺も、本当は津田の肌に触れたかった、この白い首筋だって、俺ずっと…」


そ、っと津田の首に触る
熱い、俺が想像してたよりずっと
走ったせいか少し汗をかいていて、指がジリジリと痺れる


「……ミヤ、わかってんの?」

「何が?」

「俺は、友達同士として言ったわけじゃないんだけど」

「知ってる。」

「俺が今どれだけ緊張してるのか知ってる?」

「それはわからない。でも俺も、息が出来ないくらいツラい。…つまり、どういうことかわかるでしょ?」


顔をあげた津田の頭に手を回してそっと撫でる
綺麗な茶色の瞳をこんな間近で見ることになろうとは。

津田は俺をまるで壊れそうなガラスのように大切に頬を撫でてきて。


ああ、信じられないよ津田
あのお前が、こんな真剣な顔をして、不安そうに瞳が揺れてるのも
お前が、こんなにも俺になにかを伝えようとしてるのにも。

今起こってるすべてが。



「…それで?」

「え?」

「肝心なことは、言ってくれないんだ」


津田がフッと笑う
いつもの表情に戻ってしまった津田

ああ、つまり、そういうこと…


「言ってほしい?でも津田も言ってないよね」


わざと焦らすように笑うと津田も笑う
首を軽く傾げて、なにか考えている様子

数秒もたたないうちに、津田は顔を耳に寄せてきた
耳にかかる熱い吐息


っな、



「好きだよ。…って、わざわざ言わなきゃわからない?」


うわ、めっちゃゾクゾクってなった
なんだこれ

出そうになった変な声を必死に我慢して津田を見上げる


あーあ、やっぱニヤニヤしてるし



「自分がいえって言ったんだろ」

「俺のあれはもうコクったも同然じゃん、わかりきってる。でも俺はミヤの真っ直ぐな言葉がほしいの」


畜生…
なんか津田俺の弱点知ってるんじゃないかってくらい、俺が弱い笑顔を見せてくる
ちょっと意地悪そうな、ニヤけ顔


悔しいな


「ほら、言いたいことあるなら聞くけど?」

「…なんで上からなの」

「はは、なんでだろ。待てないのかな」


確かに、俺を見て反らさない目からは「早くしろ」と伝わってくる
…そんな見るなよ

息を深く吸って覚悟を決めた


「……好き、だったり、するんですけど」

目をそらしながらぶっきらぼうに言う

小さく呟いたというのに津田には十分伝わったらしい
なんて意地っ張りな告白の仕方なんだ
でも、ずっと一緒にいるんだから俺の性格知ってるだろ


津田はうん、と頷いて俺をまた強く抱き締めてきた


「好き、好きだよミヤ。もう、ずっと前から」


唇が触れそうなくらい耳の側で何度も囁く津田

その言葉に、甘い声にグラグラと脳が揺れる
俺今なら死んでも良い、とか思ったりするんだけど。恋ってクサいこと言わせるわけ?


浅い呼吸を繰り返しながら津田を見上げる
津田も俺をジッと見つめていて、それからツラくなるほど目を合わせ続けた


なんか、さっきまで自制し続けていたから、変な気分



「なに、その目。堪らないんだけど」

「たまには俺の心を察してみて」


津田の首筋に手を這わして襟足を弄る
それに口許を歪めた津田は「勝てない」と笑った


「キスをお望みですか、であってる?」

「あってる。」


それからニヤリと笑ってどちらともなくキスをした


熱をわけあうように舌を絡ませ、息をする間も与えないくらい唇をあわせる

ああ、好きだ、どうしようもないくらい
津田って、キスするとき頭掴むんだ。ちょっと強引。
彼女しか知らない事を知れて顔がニヤけそうになる


「…津田、津田、好きだ」


キスの合間にそう呟くと、津田が荒い息を溢しながら笑った
…エッロ


「ミヤ可愛いね。俺止まんなくなりそ」

「んッ、…うぁ、今のナシ」


首を甘く噛まれて変な声が漏れてしまった
上擦った声が恥ずかしくて慌てて否定すると、津田が厭らしく微笑む


「煽ってるの?」

「ち、ちが……ッ、!」


わざと噛むな!

俺の砕きかけた腰を悠々と支える津田
恥ずかしくてうつ向いてると頭上から笑い声が聞こえた


「こんな幸せが待ってるんだったら早く言うんだった」

「…俺もそう思うよ」


お互い同じ気持ちだったんだろうか
女に嫉妬して、耐えて、逃げて。

それなのに、今、こんなにも幸せ


「今日からミヤが俺の飼い主だね」

「…?」

「だって俺って猫っぽいんでしょ?」


ああ、さっきそう言ったな
コクリと頷くと津田が俺の頭を撫でる



「でも、夜はミヤがネコだからね」

「はあ?」

「そのうち教えてあげるから」



覚悟しててね


ニヤ、と笑った津田はやけに楽しそうで。

なんだろうこの雰囲気
っつか、色気っつーか。


獲物を見つけたかのようなその雰囲気に、やっと友人達がいってる意味がわかった



確かに、こいつは猫なんて可愛いもんじゃない

まるでライオンだ。



…俺は、こいつの飼い主をやってのけれるんだろうか。




fin.