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それぞれの闘い


「(骸はきっとツナ君を……。早く行かなくっちゃ)」


此処から脱出する為には、先ずこの拘束を解かなければならない。舞はキョロキョロと辺りを見渡し、耳を澄ました。すると僅かだが風が漏れる音が聞こえ、舞はそちらを振り向く。


「あそこの窓からだ…!」


風が漏れているのは少しヒビの入った窓から。舞は、あれだ!と瞳を光らせた。もしかしたらこの拘束が解けるかもしれない。舞はベッドから下り、窓へ向かって両足で跳ねながら近づいた。窓を間近で見て、そこまで厚いものではないと確認する。


「…良かった!これなら割れる!」


舞は、ふぅ…と息を吐くと両肘を思い切りヒビの入った窓に振り下ろした。ピキ、と割れ目は広がるがこれではまだ足りない。舞は何度も何度も両肘を振り下ろす。


「…はぁ。もう、ちょっと…」


舞は息を少し乱しながら、全体に割れ目が入った窓を見つめた。後もう少しだ。そう思うが、ポタリ。舞の肘からは赤い雫が滴り床に溜まっていた。鋭い痛みが窓に触れる度に伴うが、止めるわけにはいかない。頭には大切なボスであるツナの顔が浮かんだ。


「、早く割れてッ!」


叫ぶように力を込めて傷ついた両肘を振り下ろす。すると、窓に入った亀裂がパラパラと崩れた。舞は「やった!」と頬を緩ませ、割れたガラスの破片を一つ手に持ち床へと三角座りをした。そして足を縛る縄に刃を当て、それを前後にと動かす。早く切ろうと乱雑にやったので、刃が指に食い込むがこれも気にしてはいられない。


「……あ、取れた!」


パラリ、と足の縄が切れた。数時間ぶりの自由になった脚で立ち上がると、今度は破損した窓に両手首の縄を当て器用に切った。これでこの部屋から抜けられる。舞はあまり時間が無いと、すぐさまにこの部屋を後にした。



▽ ▲ ▽



舞が部屋の脱出を試みている間、獄寺と山本とビアンキは“六道骸”と対峙していた。


「こいつが…」
「ついに出て来たな」
「フゥ太と舞に何をしたの?」


ビアンキの問に“骸”は「フゥ太…?」と首を傾げた。そして自分の右手に携える自身の武器を空に弧を描くように振り回した。知らんな、と言って。


「ぐ…」
「獄寺?」
「ハヤト!」


その瞬間、獄寺が額に汗を垂らしながらガクっと膝から項垂れた。山本とビアンキはそんな獄寺に驚愕し姉であるビアンキは獄寺の額に触れる。


「(すごい熱…シャマルが言ってたトライデント・モスキートの副作用だわ)」


獄寺はこの黒曜センターへ来る前に千種と闘い大怪我を負っていた。その時はとても此処まで来れる身体ではなく、絶対安静を強いられていた。なのに此処まで来れたのは、医師であるシャマルから治療をしてもらったがため。その副作用が今になって訪れたのだ。


「お前の相手は俺がするぜ」
「千蛇烈覇!!」


山本が相手をすると言えば“骸”は巨大な鉄球の武器、蛇鋼球を掌で弾いた。それは大きな見た目に反し結構なスピードで山本に向かってくる。ただ、運動神経の良い山本が避けられないものではない。見極め、サッと身体を引くが、その瞬間…山本の身体は何かの引力に引き込まれるように傾いた。


「がっ」


山本が驚いている暇も無く、真正面から蛇鋼球がクリーンヒットして身体は宙を浮く。それを見ていた獄寺とビアンキは顔を歪め、獄寺は彼の名前を叫んだ。そしてリボーンも小さく呟いた。「やべーな。こいつはつえーぞ」と。銃を携えながら。


「山本!!」
「何故!?完全に避けていたわ」
「これでわかったはずだ。貴様らに生き残る道はない。希望は捨てろ」


相手を睨み殺すような鋭い眼差しを這わせながら“骸”はジャラリ、と鋼球の鎖を持ち上げ冷たくそう言い放った。


「こいつ…!」
「おいおい、待てよ。まだ負けちゃいねーぜ」


倒されたと誰もが思っていた為、物腰の明るい声に全員の視線がそちらに振り向く。


「フーー。こいつを盾にしなきゃやばかったな…」
「山本武」
「あのバカ……」


山本が無事だとわかると獄寺とビアンキは安心したように表情を緩ませた。しかし、だからといってこの危機を乗り越えた訳ではない。冷静にリボーンが皆に悟った。


「ピンチには変わりねーぞ。あの鋼球の謎をとかねーと」
「…ああ。チビの言う通りだ」
「抵抗するとは愚かな。無駄な足掻きは惨死を招くぞ」


すると“骸”はまたも鋼球を大きく振り回す。今度こそ山本の息の根を止める気だ。


「千蛇烈覇!!」


そう叫び、鋼球を思い切り弾く。すると山本は「見切ってやるさ」とバットを地面にガガガッと擦り上げ、砂煙を立てた。砂は鋼球に吸い込まれるように、渦巻いていく。


「鋼球の周りに……!」
「気流だわ!」
「やべぇっ」


砂と同じように山本の身体も鋼球に呑み込まれそうになり、「ぐおっ」と声を漏らしながら間一髪の所で地に背中を着いた。そして目の前の地面に鋼球がドゴッとめり込んだ所を見て、思わず肝を冷やす。


「フーー。転ばなきゃ危なかったぜ。鋼球の周りに風が起きてやがる」


野球のボールは後ろに乱気流を作りながら、進むと言うがこれはそのような次元ではない。一体どういことだ、と皆は頭を悩ませるが逸早く鋼球の秘密に気づいたのは、やはりリボーンであった。


「鋼球の表面に彫られた蛇に秘密があるな。あの蛇の溝が球に当たる空気の流れをねじ曲げているんだ。溝を通って生まれた気流は複雑に絡み合うことで威力を何倍にも増幅させて烈風を生み出す」
「理解したとて、攻略にはならぬ」


ーー暴蛇烈覇!!


今度は更なる威力を加えた鋼球が山本を襲う。山本は額に一滴の汗を垂らしながら、「基本に忠実にいくぜ」と口角を上げた。そして走り出す。


「(確実によけて、投げた直後の隙をつく)」

「無駄だ」


無機質な声が放たれる。その瞬間に山本は気づいた。今度の鋼球は今までのように直進に進むのではなく、鋼球そのものが回転していることに。鋼球自身が回転することにより今までとは桁違いの気流が山本を襲う。


「ぐっ、うああ!」


山本の足は気流により地面から離れ、身体は宙を浮き、鋼球を直撃で浴びた。今度はバットを構える余裕もない。


「山本ー!!」


獄寺の叫び声が響くが、山本は吹っ飛ばされ木に身体を叩きつけた。ガクっと首が倒れ、彼の意識はもうない。そんな山本にとどめを刺すべく、“骸”はジャラ…と鎖を持ち山本に近寄った。


「言ったはずだ。希望は捨てろと。約束通り、惨死をくれてやる。とどめだ」
「野郎…まちやが…、うっ」


本格的に山本が危険だと悟ると獄寺は数本のダイナマイトを持ち、“骸”を止めようと立ち上がる。しかし、強烈な胸の痛みが獄寺の身体の自由を奪い、ドサっと倒れた。


「させないわ」


山本に続き、獄寺までもが戦線離脱。まだ動くことのできるビアンキはポイズンクッキングを両手に持ち、山本を庇うように佇んだ。


「俺はまだ三割の力も出していない。貴様に万に一つの勝機もない。諦めろ」


それは脅しでも虚言でもない。闘えば、自分が負けることなどビアンキは理解していた。それでも、この場から自分が退くわけにはいかない。ビアンキはゴクリと生唾を飲み込んだ。するとその時、大きな声が響き渡った。


「コラァ!!何やってんだー!!」


その声の人物にリボーンは小さく笑みを溢すのであった。



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