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貴方の生きた道


「………ん」


ふるりと睫毛を震わせ、舞が再び目を覚ませばベットの上にいて先程のように視界に映るのは、冷たい床では無く自分を誘拐したパイナップル男だった。


「おや、起きましたか」


舞は状況が飲み込めず目をキョトンとさせた。何故こんなにもこの男の顔が近いのだろう。少々放心状態となっている舞の様子を見て骸は楽しそうに目を細め、舞の頬を優しく撫でた。


「………っ」


頬を触れる温もりで舞は、やっとこの状況を理解して顔を一気に紅潮させた。頭の下からも温かさを感じる。これは俗に言うーー膝枕、という奴だ。


「な、何で…!?」
「クフフ。床では可哀想だと思ったので」
「っ、要らぬ気遣いです!」


舞は身体を転がして膝から降りた。そして未だ四肢が縛られながらも身体を起こして、骸をキッと睨んだ。しかし骸は表情を変えずに口元を緩めて楽しそうに笑みを溢している。その笑顔に舞の怒りは募り、今は所持していないが自前の武器であるヌンチャクで攻撃したい衝動に駆られた。


「(落ち着け。ペースを乱されちゃ駄目だ)」


舞は、そう自分に言い聞かせてゆっくりと息を吐いた。忘れては駄目だ。目の前の男はツナを狙って自分を攫った男。これからツナに何かを仕出かす恐れがある舞にとって除去しなきゃならない対象なのである。ツナに被害が被らない方法を考えなくては。それには先ず、聞かなくてはならないことがある。


「…ねぇ、あたしを此処へ連れて来た理由は?」


舞は淡々とした声で話した。心を落ち着かせ、冷静に。


「…10代目のことを話させるだけだったら、もっと強制的に言わせる方法だって色々あったのに何もしなかったよね」


ーー…一体何を企んでるの?


揺るぎのない真っ直ぐ射抜くような翡翠色の瞳。骸は、急に表情を変えた。少し前の優しい笑みでなく、貼り付けたような笑顔に。


「少しだけ…昔話をしましょうか」


ーー僕が貴方を必要としている訳を。


舞は思わず、ゴクリと唾を飲み込んだ。目の前の男の、骸のオッドアイの瞳がギラリと妖しく光ったのだ。まるでその瞳に呑み込まれそうな恐ろしさを抱き、背筋が凍った。そんな舞をよそに骸はゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。


ーー骸達は昔、その当時に居たエストラーネオファミリーの人体実験のモルモットとされていた。エストラーネオファミリーは、禁断の憑依弾を作った為に他のマフィアから酷い迫害を受け、外に出れば銃を向けられるという日々を過ごした。それがファミリーの大人達が推し進めていた特殊兵器開発の実験に拍車をかけたという。その犠牲者となったのはファミリーに居る子供達であった。まだ抵抗もできぬ幼い子供達の身体を大人達は弄び人体実験を続けた。昨日まで共に過ごしていた仲間が今日は存在しないことなど日常茶飯事。それはまるでこの世の地獄だ。そして、その地獄のような日々をぶっ壊したのがーー六道骸であった。


「僕は決意した。僕等を傷つけたマフィアに復讐することを。だからこそ君の力を貸して欲しいのです。僕と同じようにマフィアを恨んでる君に」
「………」


舞は目を見開いたまま何も言えなかった。骸の話した過去は想像がつかない程の壮絶なものであったから。心臓の音が全身で脈打つように感じられた。


「この瞳も見る度に憎くて堪りませんよ」


骸はソッと自身の右眼に触れた。その刹那、舞は哀しげに表情を歪ませ、


「え、」


彼の胸に自身の身体を傾けた。突然の行動に骸の素っ頓狂な声が溢れる。それもそうであろう。先程まで自分を誘拐犯だと警戒していた人物に自ら寄り添っているのだから。


「…どうしましたか?」
「ーーっだよ」


顔を俯かせている舞の声は骸には聞こえ難い。彼は首を目を丸くしながら彼女の言葉に耳を傾けた。


「……あたしは好きだよ。あんたのその瞳」
「…忌々しいこの瞳がですか?」


骸は少し驚いたが直ぐに自嘲的な笑みを浮かべ、自分の胸の中にいる舞を見下ろした。すると舞はバッと顔を上げ、舞の翡翠色の瞳と骸のオッドアイが交じり合う。そして彼女は緩慢に口を開いた。


「うん、好き。だってその瞳はあんたが逃げずに現実にちゃんと向き合って闘った証だから」


真っ直ぐ射抜くような眼差しを骸に這わせる。その瞳からは一切の同情や邪な考えなど感じられなかった。本心からの言葉、そう思えた。


「その瞳が本当に憎くて堪らないなら、取り除くことだってできた筈でしょ?それなのに、それをしないのは貴方が逃げずに立ち向かった貴方が強く生きた証。そんな証を嫌いになんてなれないよ」


貴方がその瞳を嫌いだというならその分、私が好きだと何度でも言おう。自分自身が嫌いだった私が獄寺に好きと言われ、心を軽くして貰ったように。


けど、きっと私は…昔の自分と重ねたのだと思う。自分が嫌で嫌で堪らない気持ち。それがどんなに苦しいか、私は知っているから。



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