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脱獄因


「早く済まそう」


千種がシュルル…とヨーヨーの糸を伸ばし、手に収める。今にもツナを倒しそうだ。


「(このままじゃ……やられる…)」


でも足が竦んで、動けない。逃げなくてはならないことはちゃんと理解している。でも先程と同じで、人間は本当に恐怖を感じると体が言うことを聞かないのだ。ツナが小刻みに震えている間に千種は遠慮無しに武器を向かって放つ。今度こそ駄目だ…!ツナは目元に涙を溜めて叫んだ。


「うわわああ」


その刹那ーーツナの視界が揺らいだ。


ヨーヨーから放たれた複数の針がツナにではなく、地面に突き刺さる。標的だったツナは、何かに腕を引っ張られ理解ができないままに地面に倒れ込んだ。そして、「フーッ」と第三者の声が聞こえた。


「滑り込みセーフってとこだな」
「山本ぉ!」


体を起こして双眸に映るのは、ニカっといつものように爽やかな笑顔を浮かべる山本。どうやら彼がツナを助けてくれたようだ。


「結局、学校半日で終わってさ。通りかかった並中生が喧嘩してるっつーだろ?獄寺かと思ってよ」
「(た…助かった…)そーだ!獄寺君が!」
「ああ。わかってる…」


そう山本は告げると血を大量に流し倒れている獄寺に視線を移した。


「こいつぁ…おだやかじゃねーな 」


山本は眉間に皺を濃くし、千種を恐ろしい程睨んだ。それは単純に“怒り”。友達が傷つけられ許せないという強い想い。ツナはそんな山本を見て驚いた。あの、滅多に起こらない彼がこんなにも怒りを露わにすることに。


「邪魔だ」


千種は次に山本に向かって攻撃を仕掛けた。しかしその一瞬。山本はその攻撃を見極め素早く、背負っていたバットを取り出す。そして大きく一振りしヨーヨーの糸を断ち切った。


「切ったー!つーか、いつから山本のバット常備〜〜!?」
「そうか…お前は並盛中学2ーA出席番号15番。山本武…」
「(は!そーいや山本、並中喧嘩の強さランク2位だった……)」
「だったら何だ」
「お前は犬の獲物…揉めるのめんどい……」


そう言うと千種はクルリと反転し踵を返した。ポタポタと血を流しながら。ツナは敵が去ってくれたことにホッと安堵するが、直ぐに倒れている獄寺に近寄った。


「獄寺君大丈夫!?」
「しっかりしろ!獄寺!?」



▽ ▲ ▽



保健室特有の匂いに、真っ白なベット。学校の中の一室といっても保健室というこの場は何処か違う場所のように感じる。獄寺は酸素マスクを装着されベットに横たわっており、その獄寺を囲むように保険医のシャマルに姉のビアンキ、そしてツナと山本の4人が佇んでいた。


「(俺の所為で獄寺君が……)」


大傷を負って一向に目を覚まそうとしない獄寺。そんな彼を見てツナは心臓をギュッ握り締められているような気持ちになった。あの時、自分が行かれなければ獄寺はこんなことにならなかった。今更、後悔しても遅いがそう思わずにはいられないのだ。ツナは居たたまれない気持ちになり一人ソッと保健室を後にした。


「はーー」


深い溜息が無意識に溢れる。すると、ポタン。ツナの頭に水滴が一つ零れ落ちた。「冷べて…」と天井を見上げるとツナは大きく目を見開いた。そこには、レオンがハンモックのように広がり、その上にリボーンが乗っていた。因みに落ちてきた水滴はレオンの涎だ。


「ちゃおッス」
「「ちゃおッス」じゃないよ!こっちは大変だったってのに、お前何してたんだよーー!!」
「イタリアで起きた集団脱獄を調べてたんだ」


リボーンはピョンとレオンから飛び降りて何故、集団脱獄を調べていたかをツナに説明した。


「2週間前に大罪を犯した凶悪なマフィアばかりを収容している監獄で脱獄事件が起きたんだ。脱獄犯は看守と他の囚人わや皆殺しにしやがった。その後、マフィアの情報網で脱獄の主犯は骸という少年で部下2人と日本に向かったという足取りが掴めたんだ」


ーーそして黒曜中に3人の帰国子女が転入し直ぐ様、不良をしめたのが10日前。そのリーダーの名は“六道骸”


「な!まさかムクロって…!もしかして同じ人ーー!?」


ツナの問いにリボーンはコクリと頷く。そしてツナは唖然とした。そんな恐ろしい人物が並中を狙っていることに身震いしたのだ。


「あっ、ちょっと待てよ。それって何気に相手がマフィアだって言ってんのか!?」
「逆だぞ」


そう。リボーンの言う通り六道骸達はマフィアではない。マフィアを追放された者達なのだ。それでもツナにとって恐怖の対象となることに変わりは無いが。


「あーー。こんな大変なことになっちゃって!俺、どうなっちゃうのー!?」


ツナは廊下に座り込み頭を抱えた。このままでは、いつ骸達が自分を狙ってくるかはわからない。しかしそんなツナにリボーンは更に追い討ちを掛けるような言葉を紡いだ。


「どーするって…骸達を倒すしかねーな」


リボーンの声がツナには異世界の言語のように聞こえ、一瞬頭がフリーズを起こす。しかし直ぐに理解をし険しい表情をしながら声を荒げた。


「馬鹿言え!そんな奴らに勝てるわけねーだろー!!?」
「できなくてもやんねーとなんなくなったぞ」
「はあ!?」


そう言ってリボーンが手に持ったのは、ツナ宛てである9代目からの手紙。9代目からだと聞き、ツナは目を丸くしながらも綴られている内容を聴いた。


ーー親愛なるボンゴレ10代目。君の成長ぶりは家庭教師から聞いてるよ。さて、君も歴代のボスがしてきたように次のステップを踏み出す時が来たようだ。君にボンゴレの最高責任者として指令を言い渡す。


「12時間以内に六道骸以下脱獄囚を捕獲、そして捕らえられた人質を救出せよ。幸運を祈る。9代目」


それはまるで、死神からの死刑勧告のようであった。


「ちょっ、何だよこれー!」
「追伸。成功した暁にはトマト100年分を送ろう」
「いらねーよ!」
「ちなみに断った場合は裏切りとみなしぶっ殺……」
「わーっわーっ。聞こえない聞こえないー!」


ツナは両耳に手を当て、態とらしくリボーンの言葉を遮り学校を後に走り出した。俺には関係ねーよ。冗談じゃない。マフィアなんかと関わってられるか、と叫びながら。


「ったく、リボーンの近くにいるとロクなことねーよ。ここまで来りゃ安心だ」


住宅地が並ぶ道中で額の汗を拭い、安堵の息を漏らす。しかしこの場も安全だとは言い切れない。今まで被害に遭った者は全て校外で襲われたのだから。そう考えるとツナの心は一気にまた冷え切る。そんな心を見透かすように、また悪魔の子のような赤ん坊の声が聞こえた。


「安全な場所はもーねーな」
「リボーン!!」
「しかも獄寺をやった奴にお前がボスだってバレてんだ。奴らは、直接お前を狙いつけてくるぞ」
「ひいいい。そーだったー!俺、どーすりゃいいんだー!?リボーン!どーしよー!怖ぇーよ〜!」


もうパニックである。ツナは震えながら、頭を抱えた。そんな彼に家庭教師は、「もうわかってるはずだぞ」と言い渡す。


「奴らがお前を探す為にやったことを忘れるな。お前が逃げれば被害は更に広がるぞ」


そう言われるとツナの頭に思い浮かべられるのは襲われ傷つけられた風紀委員達に了平、獄寺。そして兄が傷ついたことで涙を流す京子の姿。この全ての原因が六道骸なのだ。大切な人達を傷つけた張本人が。ツナは小刻みに震えていた拳をギュッと握った。


「……そりゃあ俺だって俺のやり方おかしいと思うよ。皆まで巻き込んで…骸って奴ムカつくよ!だけど、あの雲雀さんも帰って来てないんだぞ…そんな奴ら、ダメツナの俺に倒せっこないよ…。ーー無茶だよ…」


自信情けの視線を地面に這わせる。骸を許せないという気持ちはある。だけど、そう思っても自分の根本的なものは変わらないのだ。自分は学校でダメツナと呼ばれる底辺にいる人間。そんな自分がイタリアからの脱獄囚なんて。


「周りはそう思ってねーぞ」
「え?」


沈みかけていた心と視線がリボーンの言葉により浮き上がる。すると、「お!いたいた」と新たな声が聞こえた。


「俺も連れてって下さい!」
「え…」
「今度は眼鏡ヤローの息の根とめますんで!」
「獄寺君!」


現れたのは先程、大怪我をしてベットに横たわっていた獄寺であった。怪我は大丈夫なの?とツナが問えば、あんなの擦り傷っスよ!とフラフラとしながら言い張った。そしてまたもツナと共に行くという人物が。


「俺も行くぜツナ!今回の黒曜中のことは全部聞いたぜ。学校対抗のマフィアごっこだって?」
「(騙されてるよ山本ー!!)」
「私も行くわ!隼人が心配だもの」
「ほげーっ」


ビアンキが居ることは獄寺にとって逆効果にしかならないがこれで敵地に乗り込むメンツは揃った。そして皆は聞かされることとなる。敵のアジトには皆が知る人質がいること。ーーそして、舞との連絡がつかないなことを。



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