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はじめての殺し


晴れた秋の日。ほんのりと甘く香る金木犀が鼻腔を擽る。休日である今日、舞は山本に誘われツナの家に共に向かうことになっている。そのため待ち合わせ場所まで足を運ぶ最中だ。


「あ」


目の前には爽やかに笑う山本。舞はそれにつられるように微笑み、手を振りながら彼に走り寄った。


「よお!」
「お待たせっ!待った?」
「いや、今来たとこだぜ」
「良かったぁ。じゃあ行こっ」
「おう!」


その会話はまるで恋人との待ち合わせみたいだ。山本は密かに胸を弾ませ、ニカッと笑う。2人は横に並びながらツナの家に向かうため足並みを揃えた。


「今日、部活お休みなんだね」
「おう!まあ、偶にはいいかもな。皆と遊べるしよ」
「そうだねっ。……あれ?あそこにいるのって」
「ん?ありゃ獄寺じゃねぇか」


通りかかった公園のベンチにはタバコをふかす獄寺が座っていた。周りには鳩が集まり獄寺はただぼんやりと見つめている。


「暇だぜ」


鳩に向かって呟く獄寺を見て山本と舞は顔を合わせて笑った。あの獄寺が鳩と黄昏ていると思うと尚のこと可笑しい。


「ははっ。獄寺の奴そうとう暇みたいだな」
「ふふ。そうみたいだねっ」
「誘ってみるか?」
「んー…面白いからそのまま放っておこうよ。その前に写真っと…」


面白そうにバックから携帯を取り出しカシャっと写真を撮る。撮った写真を見て舞はとても満足そうだ。


「今度何かでキレられたらこれ見せようかな。10代目に見せるよって!」
「ははっ。獄寺の奴ますますキレるな」
「うん。あたしもそう思うっ!」


2人してまた笑顔になる。そして歩みを進めた。山本と舞は暢気な性格のせいか一緒に笑う事が多い。そんなのほほんとした空気感が舞も好きであった。



▽ ▲ ▽



「「「あ」」」


3人が一斉に声をあげる。3人というのは舞、山本、獄寺の3人だ。先程まで公園にいた筈の獄寺がツナの家の前にいることに舞と山本は驚き、獄寺は邪険そうに2人を睨んだ。


「なんでテメェらがここにいんだよ!」
「今日部活ねーからお前と同じ暇人なんだ」
「コラ!誰が暇人だ!?一緒にすんじゃねーー!」
「さっき公園のベンチでタバコふかしながら鳩に向かって「暇だー」って言ってたくせに…」
「な!見やがったな!!」
「俺も見たぜ」
「チビ女も野球馬鹿もふざけんじゃねぇ!!」


獄寺が山本に掴みかかるがじゃれあいだと思っている山本は気にしてなく、そんな様子を舞は笑いながら見ていた。そして3人でツナの部屋まで階段で上がって行った。


「よおツナ!」
「おじゃまします。10代目!」
「ツナ君。おじゃましてます!」


しかしツナの部屋は壮絶としたものだった。部屋の中はぐちゃぐちゃに荒らされベッドには倒れて動かない人がいる。ツナと遊び来ているハルが2人して机の下に隠れていたのだ。その光景が理解できず揃って首を傾げた。


「……ツナ君?」
「…何してんだ?」
「かくれんぼ………スか?」


するとツナは机から顔を出した。その顔は泣き顔でボロボロだった。そしてハルと共に泣き叫ぶ。


「俺の人生は終わったんだ〜!!もー自首するしかないー!!?」
「ツナさんが刑務所から出るまでハル待ってますー!!手紙いっぱい出しますー!!」
「は?」
「へ!?」
「えっ?」


ツナが説明するにはこうだ。起きたら死んでいる人がベッドに横たわっていたらしい。しかも殺したのはツナ本人でありそれを自覚して泣いている所にハルが遊びに来たそうだ。このことを説明しているツナの悲痛な顔といったらそれはもうすごかった。


「落ち着けよ。まだツナが殺ったと決まったわけじゃないだろ?」
「そーっスよ。だいたいこいつ本当に死んでんスか?」
「ツナ君が人殺しなんてありえないって」
「だ……だって…血が…」


今のツナには何を言っても通じない。そんなツナをどう励ませばいいか、と舞は頭を悩ませた。獄寺も獄寺なりにツナを励まそうと試みる。


「おい。起きねーと根性焼きいれっぞ」
「ひぃ〜〜〜!獄寺君なんてことを〜!!」


獄寺がタバコを死人に近づけると何故か死んだ筈なのに頬がピクリと動いた。この場にいる全員が目を見開いて驚く。


「ぎゃああああ!動いたぁぁ…」
「救急車です!救急車呼びましょーっ」
「その必要はないぞ。医者を呼んどいた」
「い…医者ってまさか…」
「ああ。そうだぞ。Dr.シャマルだ」


そう言いリボーンが連れて来たのは酔っ払って顔を真っ赤にさせているDr.シャマルだった。この状態でまともな診断ができるのであろうか。舞は怪訝そうにシャマルを見つめた。


「よぉ隼人じゃん」
「話かけんじゃねー!女たらしがうつる!スケコマシ!!」
「なんでーつれねーの」


シャマルは獄寺の城の専属医の一人で昔からの顔馴染みなんだと。獄寺は邪険に思っているらしいが。


「Dr.シャマル!早く患者を診てくださいよ!」
「そーだった。そーだった。死にかけの奴がいるんだってな」
「んー。どれどれ」


やっと診断する気になったかと舞は呆れていると胸に何か違和感を感じた。シャマルが舞の胸を触っていたのだ。


「きゃあああっ!!」


反射的に舞はシャマルに拳を入れる。その破壊力は成人であるシャマルが吹き飛ぶ程だった。


「この元気なら大丈夫だ。おまけに可愛くて感度も良いときてる」
「誰診てるんですか!!!」
「ねぇ、殴られて鬱血死するのと射殺されるのどっちがいい?特別に…選ばせてあげるよ」
「舞ちゃんも落ち着いてっ!」


今の舞は今までに見たことのない程怒っており殺気が背後から漂っていた。右手には銃、左手にはヌンチャク。今にもシャマルを殺してしまいそうだ。


「…うぅ。だって、だって…うわぁぁ」
「なんて可哀想な舞ちゃん。ハルは舞ちゃんの味方です!女の敵は一緒に成敗しましょう」
「…ハルちゃん」


舞は顔を真っ赤にさせながらハルに抱き付いた。ハルの言葉に舞は顔をあげ、その表情に女であるハル自身もドキッと胸を高鳴らせた。今の舞は涙で瞳が潤んで更に上目遣いを使っておりこの表情を見た誰もが彼女に恋をしてしまうだろう。必死に己の心を保つ為に精神を統一させるハルであった。



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