泣くなよ
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※n番煎じ





私は幼馴染みであるグリーンのことが好きだ。
だけど、彼には好きな人がいる、らしい。

グリーンがその人に恋を自覚したのは、彼がトキワシティのジムリーダーになってしばらく経った時だ。
急に変わった環境に、山積みの書類仕事。
それに身体と心がついていかなくなって体調を崩したときに、親身になって世話をしてくれたらしい。
その人は可愛くて綺麗で優しくて、バトルのセンスもまあまあ。周りからも評判が良いらしい。

らしい、という言葉が続くのは、すべてグリーン本人から惚気のように延々と聞かされたからだ。
よくトキワシティに来ているらしいが、私はまだ一度もお目にかかれていない。
体調を崩したときだって、私も親身になってお世話したのに。なんでグリーンが好きになったのは私じゃないんだろう。


ポケナビにグリーンからの連絡が入れば、私たちは夕陽が綺麗に見える丘に集合して、グリーンの好きな人のことを聞かされる。

今もその時間だ。

「………で、…って、おい、聞いてるか?」

「聞いてる聞いてる。ほんと、よくできた人だね」

気持ち半分に言葉を返せば、グリーンは嬉しそうに笑って頷く。



こっちの気持ちも考えてよね。ばか。

…なんて、グリーンに告白もできないくせに思うことじゃないか。



けれど、もしかしたらその人にも好きな人がいて、それがグリーンじゃなかったら。
グリーンが告白して振られてしまえば、今度は私に振り向いてもらえるかもしれない。


そんな不毛なことを考えてしまう自分が、大嫌いだ。





「………ねえ、そんなに好きなら告白すればいいじゃん」


好きな人の話を続けているグリーンに静かに言えば、彼はぴたりと言葉を止めて私を見た。
そして夕陽に顔を向けて苦笑する。

「…そうだよなぁ。思ってても、言わないとわからないよな」

しみじみと呟く彼の言葉に、心臓がちくりと痛む。

…その言葉は、今の私にも刺さる、かな。

「そーそー。ただでさえ、グリーンはチャラ男のイメージがついてるんだから。ちゃんと真剣に言葉にしないと」

「おい、どこがチャラ男なんだよ。全国の俺のファンを敵に回したぞ今」

「そういうところだって言ってんの」

「あー…、と。参考に聞くけどさ、美咲はどんな告白されたら嬉しいんだ?やっぱり花束貰うとか?」

そわそわと落ち着きなく尋ねてきた彼を見て、またちくりと心臓が痛む。

グリーンから告白してくれるなら、たった2文字、"好き"だと言ってくれればいいのに。

「………そうだね。可愛い花束とかあったら嬉しいかも」

真っ直ぐに彼の顔を見れず、地面を眺めながら答える。

まったく。と大げさにため息をつきながら立ち上がれば、彼に背中を向けた。
ここにこれ以上いるのは、もう無理だ。

「とにかく、成功しても失敗しても話ぐらい聞いてあげるからさ、またここに集合ね」

「さすが美咲!持つべきは親友だよな!!」

「調子乗んなチャラ男」

背中越しに会話して、ピジョンを出して家まで空を飛ぶ。


「…親友、かぁ」


その親友は、あなたのことを親友だと見ていないんだよ。


「……はやいとこ、諦めないとね」


グリーンに告白した結果を聞いたら、私はどこか遠い場所に行こう。
こんなに頻繁に顔を合わせるところに住んでいると、気持ちの区切りがつかない。
もし告白が失敗したとしても、彼なら好きな人ぐらいすぐにできるだろう。


「……好きだったよ、ばか」


どうか、幸せになって。




* * *



1週間後



朝起きたら、グリーンからメールが入っていた。
内容は、今日好きな人に告白することと、いつもの時間にいつもの場所に集合すること。
彼に了解のメールを返信してベッドから抜け出し、部屋を見渡した。

部屋の中は、日常生活で最低限使用するベッドやキッチン道具、雑貨などを除いて、綺麗に段ボールに箱詰めされている。

今日、グリーンから結果を聞けば、明日にでも引越し業者に電話して荷物を運んでもらおう。
前々から電話で引越しすることを匂わせていたし、おそらく受けてくれるだろう。…たぶん。

「…よし。夕方までにキッチン道具とか片付けちゃお」

彼との約束の時間まで、まだ十分ある。
時計を確認しつつ、私は最後の荷物の梱包作業に入った。



「………あ、そろそろ準備しないと」


荷物の梱包や掃除をしていると、時間が過ぎるのがものすごく速い。
ふと時計を見ると、グリーンとの約束の時刻が迫っていた。
急いでお風呂に入って着替えて、ピジョンの背中に乗っていつもの場所へと急ぐ。


「……もう来てる」


空からグリーンが既に来ていることが確認できた。
彼の隣に、手に持つには大きい紙袋に入った、花束らしき物も。

…渡せていないってことは、失敗したのかな。

ならば私が、と浅はかな考えが浮かぶ思考を、かぶりを振って消し去る。

やめやめ。
グリーンのことは諦めるって決めたんだぞ、自分。


ピジョンが地面に着地すれば、グリーンがこちらに振り返って片手を上げた。

「よう。遅かったな」

その顔は、告白に失敗したとは思えないほどいつも通りだった。

そのことに疑問を抱きつつも、ピジョンをボールに戻して彼に歩み寄る。

「はやいね。いつもは私より遅いくせに」

どうだった?と早速聞けば、彼は顔を俯かせて右手を首にあてた。

「あー……、それ、さ…」

言いにくそうに身体を縮こませる彼に、やはり失敗したのかと察して彼の横を通り過ぎ、いつもの場所に座った。

「まあ、座りなよ。話し聞くからさ」

先ほどまでグリーンが座っていた位置をぽんぽんと叩いて夕陽を眺めていれば、何故か後ろでがさがさと紙袋の音が響く。
告白に失敗したからって、貰い先のない花束をくれるのだろうか。

それって、なんだかすごく惨めだなぁ。

心の中で苦笑していれば、グリーンはさくさくと草を踏む音を立てながら私の後ろに立ち、そして、




「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」



彼の真剣みを帯びた言葉がこの場に響いた。


ゆっくりと後ろを振り返れば、顔を赤くさせたグリーンが、ピンクと水色を基調とした可愛い花束を私に差し出していた。

その姿を見て、先ほどの言葉が私に向けられたものだと少しずつ理解する。

けれど、どこか信じきれない自分がいて、震える声でグリーンに問いかけた。

「………なに、告白の練習?」

私の問いかけに一瞬だけ泣きそうに顔を歪めた彼は、差し出していた花束を私に押しつけた。

「美咲のことが好きだ。すっぴんが可愛いところも、化粧したら一変して綺麗になるところも、天の邪鬼だけど本当は優しいところも。俺と互角にやりあえるぐらいポケモンバトルが強いところも。あと、


俺のことを好きでいてくれるところも」


俺と付き合ってください。


言葉を続けるうちに優しい顔になり穏やかに言葉を紡ぐグリーンをまっすぐに見る。
そして、彼の最後の言葉で涙が溢れた。

「私の気持ち知ってたなら、あんな回りくどいことしないでよ」

ばか。最低。

涙をこぼしながら文句を言う私の頭をグリーンは苦笑して撫でる。

「あぁ。ごめんな」

「ほんとだよ。私がいつも、どんな気持ちで話しを聞いてたか」

泣きながら睨んでいると、グリーンは私を抱きしめた。

「悪かったって。もう泣くなよ」


告白の返事、くれねえの?


耳元で呟かれた言葉に、私は涙を流したまま何度も頷いた。


「私も、ずっと前から好きだったよ。ばか」



お互い、回り道し過ぎたみたいだね。私たち。









(だー!もう泣くなって!)
(むり…!)
(もー。俺のこと大好きじゃん)
(そうだよ好きだよばか!)
(俺の方が好きだっつーの。ばか)

 

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