お互い仲良くやろうよ
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「また修羅場だった」

ずうぅぅぅん………と効果音がつきそうなほど落ち込んで居酒屋の机に伏せている幼馴染みに、またかと呆れつつも私は枝豆をおつまみにビールを煽る。

夕方にポケナビで幼馴染みに呼び出された。
行きつけの居酒屋を指定された瞬間「またか」と頭を抱えたのは、私の慈悲で内緒にしてやろうと思う。

「だからさぁ、何回も言ってるじゃん。あんたは独り身の方がいいんだって」

「彼女欲しい……」

「思春期の男子か」

目の前の男が落ち込むのは、なにも今回が初めてではない。むしろよくあることだ。

この男、ツワブキダイゴはとにかく顔が良い。
「天は二物を与えず」とは言うが、この男の場合はそれをものともせず、逆に天から三物も四物も与えられている。

顔良し、性格良し、経済力良し。
更には人望、ポケモンバトルの能力も素晴らしい。
まあ石オタクという欠点はあるが、そこはご愛嬌。

しかし、ご愛嬌で済まされない彼の欠点がある。
それは………、






「なんで毎回変なのに引っかかるかな」



「今回の彼女は大丈夫だと思ったんだ!!!」



「それ毎回聞いてる」







もうお気付きかもしれないがこの男、


女運が絶望的に無いのである。



「歴代の彼女、メンヘラにヤンデレ、ストーカーにファザコン。更には元彼と復縁したいがために利用されたり、複数のキープの中の1人にされたり他にもいろいろ。…告白されたら考えもなしにすぐ付き合うからだよ。馬鹿じゃん、馬鹿。ばーーーーか。イケメンで経済力あって性格も良くてバトルも強いからって調子に乗りすぎ」

「それ褒めてるよね???ありがとう??」

「どういたしまして」

ダイゴの女を見る目は、先程列挙した通りだ。
いやそもそも、彼女が欲しいという目的のためだけに、自分に告白してきた女の子たちを無意識に利用しているのかもしれない。タチが悪い。

そして結局、彼女と長続きするはずもなく、利用されるだけ利用されて彼女から別れを告げられる。
よくここまで女に利用されてトラウマにならないなと、感心さえ覚えるほどだ。

「はあぁぁぁぁ……。なんでいつも長続きしないんだろう…」

「あんたにも原因があるんじゃないの。これだけの数振られてきたんなら」




「ないよ」




今までの落ち込んだ様子から、一変して凛と響いた一言に目を見開いた。
私たちの周りに、なんだかピリピリとした緊張感が漂い始める。

枝豆に落としていた視線を目の前の男へと上げれば、彼は真っ直ぐな瞳で私を見ていた。

「彼女たちが、僕が絶対に譲れないものを否定した。それは許されないことだ」

まぁ、だから長続きしないんだけどね。

最後には苦笑に変わり、彼の雰囲気も柔らかくなる。
どこかへ消え去った謎の緊張感にひっそりと息を吐けば、ビールジョッキに僅かに残っていた中身を一口で飲み切った。

そして空になったジョッキを机に勢いよく置けば、大きな音と振動が机上に響く。

「飲もうか」

もう今夜は好きなだけ飲もう。付き合うから。
いいのかい?いつもだったら、"太るからビールは一杯まで"って言ってるじゃないか。
あんたが振られた記念よ、記念。
振られ回数更新記念日だね。

「「乾杯」」

嫌なこと、目の前の男に言いたいこと。
全部ぜんぶ、お酒で胃の中に流し込んで。
そしてまた明日になれば、彼とは親友だ。

「(……親友、かぁ)」

いつまで親友でいるんだろ、私。
でも、彼に私の気持ちを伝えてこの雰囲気が壊れるのは嫌だ。
どうせ彼女ができても長続きしないし、

今はまだ、このままで。



……なんて、ただの臆病者の言い訳だ。









* * *


・主人公
ダイゴの幼馴染み。一般家庭。親同士が仲良い。
ダイゴのことが好きだけど、ダイゴは自分のことを親友としか見ていないことに気づいてるため、自分の気持ちを告げないことにしている。
ダイゴの元カノたちのストーカーやヤンデレから彼を助けた経験あり。
「独り身の方があんたは良いんだって。……私もどうせ独り身だからさ、お互い仲良くやろうよ」


・ツワブキダイゴ
主人公の幼馴染み。女運が絶望的に悪い。
ストーカーやヤンデレが彼女だった頃、恋人の様子がおかしいからと主人公に相談したところ、時間をかけずに解決してくれたため、何かと主人公を頼ることに。
「だってさぁ、前の彼女たち、みんな口を揃えてこう言うんだ。"美咲と会わないで"って。美咲に会えなくなるぐらいなら、僕は喜んで恋人と別れるよ。当然さ」
無自覚片想い。早く気付くが吉。

 

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