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初めての顔合わせから1年半が経ち、家でゆっくりとしていれば、出会って初めてダイゴさんがアポ無しで私を訪ねてきた。
とりあえずと私の部屋で話を聞けば、彼はポケモントレーナーとして旅を始めるらしく、暫く会えなくなるからと旅立ちの前に私の家に寄ったらしい。
話を聞き、それならば長時間引き留めては悪いからと玄関まで見送ろうと席を立てば、彼も立ち上がって鞄から1つの小さな箱を私に差し出した。
「僕の身勝手で旅立つことを、どうか許してほしい。これはそのお詫びと、離れていても僕という存在を忘れてほしくないがためのおまじないだ」
箱を受け取り中を見れば、澄んだ黄色をした宝石、シトリンが埋まったネックレスだった。
自然と石言葉が浮かんだ後、シトリンの意味を理解した私は顔を赤らめる。
彼も恥ずかしいのか、少し頬を赤くさせながらも私の頭を撫でた。
「僕はエリシアを守れるように、もっと強くなる。旅が終わり、正式に家業を引き継いだらその時は、僕と結婚してほしい」
彼の言葉に嬉しくなり、もちろんだと笑顔で頷く。
私の返事を聞いて安心した彼は笑顔で頷き、私の家を出て、そのまま旅に出た。
彼の姿が見えなくなるまで見送り、ネックレスを眺めていれば、ティアが微笑ましそうに私を見た。
「寂しくなりますね、お嬢様」
「そうね。…あぁ、そうだ」
私もあと1、2年したら旅に出るから。
そういえば言ってなかったなと思いながらティアに伝えれば、数秒後に絶叫が響き渡った。
「おおおお嬢様、その旅に私は……!」
「ティアはお留守番よ。どこに同伴者をつれて旅に出る人がいるの」
「わ、私は、お役御免……!?」
「いやその分家のことやってよ!私の部屋の掃除とかもあるし!」
むしろ今更ティア以外に世話をされるのは嫌だと言えば、彼女は一転して嬉しそうに笑い、私に頭を下げる。
「私はいつも、お嬢様のお側に」
「うん。…って言っても、お留守番は変わらないからね」
「大事なお嬢様のお部屋を、他の人にさせるわけにはいきませんからね」
仕方ないですねと納得してもらい、仕事から帰ってきた両親にも旅の旨を伝えれば、快く頷いてくれた。
「ただし、無茶はしないこと。無茶するぐらいなら帰ってきなさい」
「………はい」
多少無茶しないと成長しないんだけどと思いつつも、まあその時に考えようと思考を放棄した。
その日から私の胸には、肌身離さずにシトリンのネックレスがつけられるようになった。
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