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ついにバトル当日。
朝からどこか浮き足立つ思いで出掛ける支度を終わらせ、車でダイゴさんに指定された場所まで向かう。
よっぽどそわそわしていたのか、隣に座っているティアが小さく笑った。
「よっぽど楽しみなんですね」
「当り前じゃない。テレビで見る度に思ってたのよ。タイプ相性的にも経験的にも、きっとダイゴさんの足元にも及ばないけど…。でも、とっても楽しみ」
頑張りましょうね、ロコン。と腕の中にいるパートナーに声をかければ、彼もまた元気な声で返事をしてくれた。
彼はどんな技を出してくるんだろうか。
…あれ、ダンバルって、メタングに進化するまでとっしんしか覚えなかった気がするんだけど気のせいかな。
* * *
以前ダイゴさんが言っていた、彼の家が所有しているバトルスタジアムに到着すれば、入口で彼が待ってくれており、一緒に中へと進む。
今にもジムリーダーとのバトルが始まりそうなくらい綺麗な施設に、思わず苦笑した。
「私とのバトルでこんな綺麗な施設を使わずとも、街の外の野原でも良かったのに」
私の言葉にダイゴさんは首を横に振る。
「それはできない。野生のポケモンがエリシアちゃんに襲いかかる危険性だってあるんだ。エリシアちゃんには安全に、楽しくバトルしてほしいんだよ」
野生のポケモンが襲い掛かってきたとしてロコンがいるし周りの大人もいるし、ましてやダイゴさんもいるんだから気にしなくていいのでは??
…と思わないこともなかったが、彼の考えたことだと納得し頷いた。
バトルフィールドで向かい合うように所定の位置につけば、ダイゴさんが確認するように声をかけてくる。
「お互い使用するポケモンは1体。ただし、本気のバトルではないから、ポケモンへの指示出しも急がなくていい。しっかりと状況を見て、的確に指示を出すんだ。今日はその練習」
「わかりました」
彼の言葉に頷けば、彼はモンスターボールから1体のポケモンを出した。
そのポケモンは、意外にもココドラだった。
ゲームでの手持ちにいたっけ…?と、確実にダンバルを出してくるだろうと予想していたため首を傾げたが、どちらにしても私にはロコンしかいないため、足元にいるロコンに声をかける。
「やっぱり相性的に良くはないけど、頑張ってくれる?」
私の呼びかけに元気よく答え、たたたっと走ってフィールドの真ん中へと立った。
審判もいないポケモンバトルが始まり、ダイゴさんに私から攻撃の指示を出すよう言われたため、とりあえずといった感じでひのこを放つよう指示を出す。
ひのこを放たれたココドラはダイゴさんの指示で右に避け、ロコンにたいあたりするよう指示を出した。
「…っきゅう」
「ロコン!」
ココドラのたいあたり1回だけで、私の足元まで弾き飛ばされたロコンに内心肝が冷える。ココドラってたいあたりでこんな強かったか…?
ロコンは再び立ち上がって負けじとフィールドの真ん中に戻って行く後ろ姿を見て、私も頑張ろうと気合いを入れなおしてロコンにどんどん指示を出していく。
「ロコン、3歩後ろに下がってたいあたり!」
「…っ。ロコン、そのままつっこんでくるココドラにひのこ!」
途中から、最初に感じていた不安はなくなり、あるのは最後までやりきろうとする必死さだけ。
ダイゴさんも、私の様子が変わったのがわかったのか、真剣な表情をしてココドラに指示を出していた。
* * *
「…っ、ロコン…!」
バトルの結果は、まあ当然といえば当然なのだが、ダイゴさんが勝った。
しかしロコンへの指示の出し方や相手のポケモンの様子を伺うことなど、良い発見があって満足だった私は、ロコンに回復薬を使いながらダイゴさんにお礼を言う。
「ありがとうございました。とても勉強になりました」
同じくココドラに回復薬を使っていた彼は首を横に振り、楽しそうに笑った。
「いや、僕も楽しかったよ。エリシアちゃんはきっと、バトルの素質があるんだろうね。途中からロコンへの指示出しも、的確に出来ていたよ」
僕が本気を出してしまうほどにね。と最後には苦笑して言われ、それだけでも嬉しくなる。たしか彼はトレーナーズスクールの成績がトップだったから、その彼に本気を出させただけでも、今日は儲けものではないだろうか。
その後はダイゴさんにバトル中での良かったところと改善すべきところをフィードバックしてもらい、お茶を飲みながらまた石について話し、帰路についた。
帰りの車中でティアが、私がバトルで負けたことを残念そうにしていたが、次は勝ってみせると言えば笑った。
「そうですね。お嬢様、負けず嫌いでしたね」
「そうよ。今回負けたなら、強くなって次回倒せばいいもの」
次こそ勝ちましょうね、ロコン。
キュウ!
パートナーと頷きあい、次の日から時間があけばティアと街の外へ行き、野生のポケモンとバトルする日々が続く。
「ダイゴさん、もう1度バトルしてください!」
「エリシアちゃん、昨日やったばかりだよ」
「今日は勝つかもしれないじゃないですか!」
ダイゴさんに会うたびにバトルを迫る私に、彼もたじたじだった。
しかし何回彼に挑んでも、毎回負けるのは私が弱いのか、ダイゴさんが強すぎるのか。
それが婚約者の彼に対する、最大の謎だった。
「また負けた…!!」
「僕に何回挑んでも同じだよ、エリシアちゃん」
「くっ…!また挑んでやりますから!!」
こんな日々が、なんだかんだ楽しい。
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