この世界は笑顔で溢れている15/17
※2020/09/29に公開された某pkmn動画を観て勢いで書いたものです。
先に動画を観たほうがわかりやすいかも。
「エリシア、なに観てるんだい?」
「あ、ダイゴさん」
太陽が真上を通り過ぎた昼下がり。
ソファに座ってイヤホンをつけて、私はある動画を観ていた。
それは夜中のうちにグリーンから送られてきたもので、初めて観たときは綺麗やらかっこいいやらで、一人でいるのをいいことに大号泣した。
隙間時間のたびに動画を繰り返し観ていれば、いつのまにリーグから帰ってきていたのか、後ろから肩をたたいて声をかけられた。
「ふふ、バレちゃいましたね」
小さく笑えば、ダイゴさんが首を傾げて私の手の中にあるポケナビの画面を覗き込んで苦笑した。
「映っているのは一瞬だけど、なんだか恥ずかしいな」
「とっても素敵ですよ」
「その動画、撮影に協力したけど全部は観てないんだ。テレビで観ようか」
そう言って自身のポケナビとテレビをつないだダイゴさんは動画を再生すると、スーツの上着を脱いで私の隣に座った。
それからの彼は、まるで子供みたいに目を輝かせてわくわくした顔で画面に釘付けになった。
ダイゴさんを見て小さく笑い、私も画面に集中する。
動画に出てくるのは、各地方の危機を救った歴代のゲームの主人公やライバルたち。
各地方のチャンピオンや重要人物たちも出ている。
そして最近シンオウ地方でも話題になっている、ガラル地方のジムリーダーやチャンピオンまで撮影に協力しているからすごいものだ。製作陣のコネはどうなっているんだろう。
もう何回も観ているはずなのに、建物のゲームの主人公たちが走っている影、各地方のチャンピオンが出てきたところで、なぜだか涙が溢れてきた。
私がいま存在している世界は、なんて素敵で、綺麗で、平和なんだろう。
動画が終了し、余韻をかみしめていたダイゴさんは隣にいる私に顔を向けた。
「すごかったね!!こんなわくわく感はめったに……、エリシア?」
涙が止まらずにそのままにしていれば、慌ててハンカチを取り出したダイゴさんは、私の頬にハンカチをあてて涙を拭ってくれる。
それでも止まらない涙に彼は苦笑し、ハンカチを私に持たせて、肩を抱いて頭を撫でてくれた。
「どうしたんだい?キミが泣くなんて珍しいね」
「幸せだな、と思いまして」
「…あの動画を観て?」
不思議そうに首を傾げるダイゴさんに、私は小さく笑って頷く。
「知り合いも多く出ていますし、なにより、みんなが笑顔でいてくれていますから」
みんながいるこの世界に存在できていることが、幸せでたまらない。
"私"として生まれ変わる前の、トリップする前の世界と自分を思い出す。
あの世界では私はもう大人で、ポケモンを遊ぶ機会なんて滅多になかった。
それでも、子供の頃に体験した、ゲームを起動してオープニングが流れた瞬間の、あのわくわく感は今でも思い出せる。
思えば、あの頃も私はダイゴさんが好きだったなあ。
なんだか昔を思い出していると、旅に出たいなと漠然と思う。
さっきの動画の影響でも受けてるのかな。
涙が止まり、渡されたハンカチで目元と頬を拭ってダイゴさんを見上げれば、優しく微笑んで名前を呼んでくれる。
その表情と声に、私の心臓はドクリと大きく音を立てた。
「どうしたんだい?エリシア」
「…好きだなあ、と思いまして。昔も今も」
動画のダイゴさんも、とても格好良かったですよ。
そう言って笑えば、ダイゴさんの顔が少しずつ赤くなっていき、やがて私の頭から手を離して自身の顔を覆った。
「…心臓に悪いから、急に言うのはやめてほしいな」
でも嬉しいよと笑う彼を一度強く抱きしめ、すぐに離れればソファから立ち上がる。
静かに歩いて、棚の上に置いている旅用の鞄を手に取った。
後ろを振り返れば、こちらを呆然と見ているダイゴさんの姿が。
「…エリシア?」
「ちょっと出掛けて来ます!」
言い終わらないうちに玄関へと走り出せば、ダイゴさんが後ろから慌てて追いかけてくる。
「ち、ちょっと待って!絶対旅に出る気じゃないか!!」
「大丈夫です!ほんの1年ぐらいなので!!」
「そこは嘘でも1か月って言ってくれ!」
あの動画に触発されたな!?と後ろで叫んでいるダイゴさんに、走っている足を止めて振り返り笑顔で叫ぶ。
「ダイゴさんが私を見つけられたら、大人しく家に帰ります!」
言い終わると同時にボールからチルタリスを出せば、その背中に飛び乗る。
「チルタリス、そらをとぶ!」
「チル!!」
勢いよく空へと飛びあがったチルタリスに捕まり、どこへいこうかと考える。
なんだか今は、みんなに早く会いたい。
「…よし!ミクリさんに会いに行こうか」
ルネシティまで行くようにチルタリスにお願いし、ポケナビでミクリさんに連絡しておく。
彼からはすぐに"楽しみにしている"と返事がきて、だらしなく顔がにやける。
「幸せだなぁ」
へへ、と笑い、チルタリスに抱きつく。
チルタリスは嬉しそうに鳴き声をあげ、美しい歌声を空に響かせた。
一週間後、ダイゴさんに見つかった私は家へと連れ戻された。
(ふふふ。見つかっちゃいましたね)
(まったく…。心当たりの人物に聞いても、みんなから"昨日会った"って言われたんだよ。悔しかったなあ)
(そうなんですか?)
(まずミクリに会って、次にグリーンくん。レッドくん。それからヒビキくんにハルカちゃんに…)
((…見事に私が会った順番だなぁ。え、私そんなにわかりやすいの…?))
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