ガラル地方へ 314/17
「うーん…、こっちもいいけれど…」
「あの、ダイゴさん?」
どうしていきなりブティック?と尋ねようとした瞬間、彼が選んだワンピースを手に持たされる。
「それ、着てみてくれるかい?きっとエリシアによく似合うよ」
「は、はあ……?」
彼の行動がわからず、頭に疑問符をつけながら試着室に行ってワンピースに着替えれば、ダイゴさんに見せる。
「どうでしょうか?」
試着室のカーテンを開いて、近くで待っていたダイゴさんに見せれば、彼は満足げに何度も頷いた。
そして近くの店員さんを呼び、私を見せる。
「このワンピースに似合うアクセサリーと靴をお願いできるかな」
ダイゴさんの言葉に、かしこまりましたと承諾した店員さんは、数秒間私をまじまじと見て何度か頷いた後、奥から数個の箱を持ってきた。
「こちらなんていかがでしょうか」
彼女が持ってきたヒールの低いパンプス、ネックレスを身に着ければ"似合っている"との言葉をもらい、お店の奥にある半個室のスペースへと連れられて、髪をセットアップしてもらった。
鏡で見た私は、見違えたように輝いて見えた。
今なら、自信を持ってダイゴさんの隣を歩けるかもしれない。
「お待たせいたしました、ツワブキダイゴ様」
私をダイゴさんのもとへ連れて行った彼女は、ダイゴさんの名前を告げて一礼した。
それに、私もダイゴさんも驚く。
「…驚いたな。名前を名乗ってはいないはずだけど」
「当店の店員として、各地方の有名な方のチェックは欠かしておりませんので」
当然です。と言いたげに自信に満ち溢れている彼女を見て、ダイゴさんと顔を見合わせる。
「…僕は、思ったよりも有名なのかもしれない」
「気付くのが遅いですよ、ダイゴさん」
きょとんとした顔で言う彼に、思わずジト目になるのは許してほしい。
まったく。と軽くため息をつけば、小さく笑いながら店員さんが私を見る。
「エリシア様も、十分有名な方ですよ」
「・・・え、」
なぜ私が、と首を傾げると、彼女は説明してくれた。
「ホウエン地方のチャンピオンであるツワブキ様に、ポケモンバトルで勝つのではないかと噂されるほどの実力者。しかも、ツワブキダイゴ様の幼少期からの婚約者様、ですよね?」
私の独自調査ルートによると、非公式で1度、ツワブキ様にバトルで勝利しているとか。とてもお強いんですね。
つらつらと、笑顔で私について語る彼女に、少し引いてしまう。
「その情報、どこで……。特に最後…」
「とあるジムリーダーと知り合いなだけですよ」
そのジムリーダーってあれか。グリーンか。グリーンなのか。
グリーン以外のジムリーダーは、私とダイゴさんが非公式でバトルしたことすら知らないんじゃないか。
その後も彼女と少し話をして(おすすめの観光地とかグルメとか)、そうだとダイゴさんが思い出す。
「まだ洋服の支払いを済ませていなかったね。カードでたのむよ」
「かしこまりました。支払いと同時に洋服のタグを切るので、エリシア様、こちらへ」
ダイゴさんからカードを受け取った彼女は、再度私を試着室へ入れると身に着けているもののタグをすべて外す。
その後で、カードで支払いを済ませた。
その時に見えた金額から、そっと目をそらす。
…あの金額を稼ぐには、何回四天王を倒したらいいんだろうか。
「お待たせいたしました。カードをお返しいたします」
「いろいろとありがとう。とても楽しかったよ」
「髪のセットアップも、ありがとうございました」
「とんでもございません。どうぞ、楽しいご旅行を」
ブティックを出て、ダイゴさんと腕を組んで街を歩く。
「どこへ行こうか。鉱山で僕に付き合わせてしまうからね。エリシアの好きなところに行こう」
「本当ですか?それなら…、」
ガラルの観光マップを見ながら、ここへ行きたいと言えば、ダイゴさんは二つ返事で頷いたくれた。
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
相変わらず道行く人はダイゴさんを振り返るけど、ホテルへ行くときみたいに気になりはしない。
きっと、ダイゴさんが選んでくれた洋服が、そして店員さんが合わせてくれた靴やアクセサリー、セットアップしてくれた髪が、私に自信を持たせてくれているんだ。
前を向いて歩く私を見て、ダイゴさんが嬉しそうに笑ったのには、気が付かなかった。
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