彼なりの元気づける方法
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「エリシア、王子とお姫様ごっこをしよう!」

「……はい?」


え、急にどうしたんですかダイゴさん?



* * *
数分前



なんだか最近、ツイてない。

バトルでもコンテストでも、良かれと思ってやったポケモンの微調整が悪い方で結果に出て。
ダイゴさんにご飯を作ろうとしても、まだ慣れていないせいか失敗して、ダイゴさんに微笑ましそうに笑われて。
天気予報で雨が降らないと言っていたから傘を持たずに出掛けたのに、帰り際に土砂降りで濡れて帰って。



最近、本当にツイてない。


「はぁ…」

「キュウ?」

「ああごめんねキュウコン。ちょっと落ち込んでるだけだから」


昼下がり、一人自室でお茶を飲みながらため息をつけば、心配そうにキュウコンが擦り寄ってきたから頭を撫でる。

いやしかし、神社か何かでお祓いをしてもらった方がいいのだろうか。真剣に考えるレベルだ。


「お祓いって、電話したらやってくれるのかな…」


バンッッ


「エリシア!」


「だ、ダイゴさん?」


再びため息をついた瞬間、大きな音を立てながら扉を開けて部屋に入ってきたダイゴさんに驚いていると、私の隣に立った彼は私に手を差し出した。

そしてこう言ったのだ。


「エリシア、王子とお姫様ごっこをしよう!」



「……はい?」


そして冒頭に戻る



* * *






「急にどうしたんですか?」

彼はこんなに突拍子のないことを言うのは非常に珍しく、目を瞬かせながら尋ねれば、彼は楽しそうに笑った。

「実は、エリシアに似合いそうなドレスを見つけたんだ。もう買ってしまったから、どうせなら王子とお姫様ごっこでもしよう」

僕が王子で、エリシアがお姫様だ。


本当に楽しそうに、無邪気な笑顔で話す彼を前に、正直気は進まなかったが、まあいいかと頷いた。


「でも、ごっこ遊びをするにしても、どうやって…」

「それも考えてあるよ。おいで、」

ダイゴさんは私の手を取って立ち上がらせ、そのまま外に出た。
ボールからエアームドを出して彼に乗り込み、状況がうまく飲み込めないまま、エアームドは空を飛び始めた。

これ絶対エアームドとダイゴさん打ち合わせしてたでしょ。

「ダイゴさん!?」

「ごっこ遊びをするのに相応しい場所があるんだ」

場所は着いてからのお楽しみだよ。と笑顔で告げられる。

こうなったら頑固だからなあ……。と内心ため息をつき、彼に流されるがままエアームドで目的地まで運ばれたのだった。



そして着いた場所が、


「こ、ここは………、」

「ツワブキ家の別荘さ。…って言っても、ここを使うのは僕だけなんだけどね」

エアームドで降り立った場所。
そこは、見渡す限り木が密集している森で、そこにぽつんと……、いやぽつんとではないか。
ドドーン!という効果音がつきそうなほど大きな、大きな屋敷があった。

……え?ツワブキ家の財力凄すぎでは?


ぽかんと口を開けて屋敷を見上げていたらダイゴさんに笑われ、屋敷の中へと連れられる。

「わぁ……!」

屋敷の中に入ると、更にツワブキ家の凄さがわかる。

御伽噺に出てきそうな大きなエントランス。
中央には1つの大きな階段があり、途中で左右に分かれて2階へと続いている。
床には赤い絨毯が敷かれていて、壁に掛けられている額縁には様々な絵が描かれている。

なんだか自分が、お姫様になった気分だ。


周囲に圧倒されていると、ダイゴさんはメイドを呼んで私を彼女らに預けた。

「彼女を、とびきり可愛いお姫様にしてくれ」

ダイゴさんの指示にメイドは頭を下げ、準備していたのか、私を部屋に案内した。


こちらです。と扉を開けられた部屋へ入れば、ドレスを着せているトルソーが目に飛び込んできた。
ダイゴさんが"私に似合う"と思って買ってくれた例のドレスなのだろうか。

そのドレスは、シンプルだが決して地味すぎておらず、後ろの窓から差し込む温かな光でキラキラと輝いて見える。
あまり服飾に興味が無い私でさえ、思わず"着てみたい"と胸が高鳴ったほどだ。


メイドたちの手によってドレスを見に纏い、髪も丁寧に結い上げられ、化粧も施される。

「完成です!」

「わぁ……!!」

全身鏡の前に立ち、自分の姿を確認する。
この部屋に入る前と今とでは、まるで別人かのような変わりようだ。
鏡越しに見る自分は、何かフィルターでもかけられたみたいにキラキラしている。

メイドたちは楽しそうに私を褒めた後、部屋の扉を開けた。

「ぜひ、ダイゴ様にお見せくださいませ」

メイドの言葉に頷き、私は先程のエントランスへと歩みを進めた。


歩いていくと、1階へ続く階段の中ほど、ちょうど二手に分かれている階段が繋がっているところに彼は立っていた。

ダイゴさんは私に気がつくと一瞬固まったが、すぐに嬉しそうに笑って私に手を差し出した。

「待っていたよ。さあ、おいで」

差し出された手を取り、ゆっくりと階段を降りる。


素敵なドレスを着て、ダイゴさんにリードされながらお城のような階段を降りる。
幸せで幸せで、夢なんじゃないかとさえ思う。
私がここ最近落ち込んでいたことなんて、ちっぽけなことに感じるほどに。




「…エリシア?どうしたんだい?」

「…え?」

階段を降りきったところでダイゴさんに顔を覗き込まれた。
そこで初めて、自分が泣いていることに気づく。
慌てて涙を拭っていれば、ダイゴさんがハンカチで優しく拭ってくれる。

「すみません…」

「いいんだよ。どうしたんだい?」

再度理由を問われ、正直に話す。

「今、この瞬間が幸せすぎて。夢じゃないかと思うほどに。…私が最近落ち込んでいたことなんて、どうでもよくなりました」

ありがとうございます。と笑ってお礼を言えば、ダイゴさんも嬉しそうに笑う。

「やっと笑ってくれたね。僕は、きみの笑顔が見たかったんだ」

こちらこそ、笑顔を見せてくれてありがとう。


彼の予想していなかった言葉に、更に涙が溢れ、ダイゴさんを困らせてしまったのは言うまでもない。


私は、この日を絶対に忘れないだろう。











後日聞いた話しだが、私のドレスはダイゴさんがデザイナーに頼んだ特注品。
ドレスを見つけた、なんて嘘だったのだ。
ちなみに、あの立派な屋敷は、本当にダイゴさんぐらいしか使わないらしい。
なぜあんなことをしたのか尋ねれば、彼はなんてことのないように、笑ってこう言った。

「もちろん、エリシアの笑顔が見たかったからだよ」

…彼には、私が最近落ち込んでいたことなんてお見通しだったらしい。

「大切な女性には、いつも笑っていてほしいものさ」

「…敵いませんね、ダイゴさんには」

本当に、私は幸せ者だ。
一生をかけて、抱えきれないほどの感謝の思いを、彼に伝えていこう。
ダイゴさんの隣で。

 

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