ワールドエンドのその先に 03


「あ゙? 今なんつった」

 ナイトレイブンカレッジに入学してからいうもの、ゾワッと皮膚が粟立つような出来事に遭遇したことがなかった。あっても「ああビビった」の一言で片付けられるような瑣末なものばかりだ。そう、ここでの学校生活はカラカラに干からびたサバンナで生き残るよりよっぽど簡単なのだ。命をかけるとか、腹が減って喉が渇いて死にそうになるとか、こんな温室のような環境じゃまずそうはならない。
 にも関わらず、だ。

「次のホリデーは帰る。あいつにも伝えておけ」

 吐き捨てる声が地を這うように低い。おっかしいな、レオナさんは皇后様と電話しているだけのはずなのに。ゾワゾワするような寒気と本能的な冷や汗が止まらない。
 オレは今、めちゃくちゃに死の危機を感じている。レオナさんが電話口でも比較的大人しいから、皇后様からの電話だろうと当たりをつけてたッスけど……なにがあったらあんなに不機嫌になるのか。レオナさんがブチギレるのは王様と比べられるか実家のことでとやかく言われるか、もしくは公女様になにかあった時くらいだ。皇后様は無神経な人じゃないし、そうそう王様の話題は出さない。だったらもう、自動的に公女様関連だってことはわかるわけで。甥っ子くんと遊んでてちょっと怪我したとか病気にかかったとか、それだけでもわかりにく〜い心配をするようなレオナさんがここまでキレるとなると、王室のほうでなんらかの事件が起きたに違いない。
 レオナさんは電話を切ると携帯をベッドに投げ、苛立ちを隠しもせずに長いしっぽを素早く揺らしていた。公女様になにがあったのか気になる! めちゃくちゃ気になるけど、聞いたら聞いたでまた不機嫌になるのは目に見えてるんスよねえ!!

「夕焼けの草原に帰るんスか?」
「ああ。とにかくあいつと話す」

 ふざけやがって、と呟く声は相変わらず唸り声のようだった。
 ちょっとちょっとどうしちゃったんスか。今まで公女様の話だけはちょっと嬉しそうに聞いてたじゃないッスか!!


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