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太守館の二階に部屋を用意され、同行してきた勇敢な侍女たちもほっとした様子である。
着替えを用意してくれている彼女らを横目に、クレスツェンツはペシラを囲む城壁の東門を見ていた。街並みに埋もれているが、微かに兵士の行き来する様子が覗える。
(落雷……)
太守の言葉が妙に気にかかった。気にかかる、としかいいようがないのだが。
「エリーアス伝師がお戻りです」
「そうか」
旅装を解くと、クレスツェンツは階下へ降りた。すると待ち構えていたエリーアスが肩を怒らせてずかずかと歩み寄ってくる。
「どうだった。施療院長の手は空きそうか」
この街でどれくらい施療院が機能しているのか把握したい。そう思ったクレスツェンツはエリーアスに院長への取りなしを頼み、今晩の会食に参加して欲しいという伝言を頼んだ。
しかし戻ってきたエリーアスはクレスツェンツの問いに答えず、奥歯を噛み締めて黙る。
「エリー?」
「東門に集まっている調査団の話を聞きましたか」
「ああ、不審な落雷があったから確認に行くという話だろう。ついでに辺境地の病の状況を見てくるのだと」
「こちらへ来て下さい」
エリーアスは太守館の一階にある議場へクレスツェンツを連れて行った。
並べられた机の上に、様々な書き込みがされた領邦内の地図が散乱していた。ふたりが入ってきたことにも気づかず、官吏が忙しく言葉を交わし動き回っている。
そんな中、エリーアスは領邦全体が描かれた地図を見つけると空いていた机の上に広げて見せた。
「ここがペシラです。落雷があったのは、ペシラの南東の方角」
彼は指を指しながら、すっと地図を斜めになぞった。やがてその指先はある一点で止まる。
『ブレイ村』
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