dear dear

25

 クレスツェンツは目を瞠った。
「関係ないかも知れません、ですが、」
 一度言葉を切ったエリーアスは、ゆっくりと顔を上げた。
「ユニカの両親が死んだときも、偶然≠ノ雷が落ちたということになっています。……俺は見たことがありませんが、ユニカは稲妻のような力を放つことがあったそうです。神々が持っている雷の槍、『天槍』のような」
「――ああ、」
 知っている。アヒムの日記の中にもあったもの。
 力なく呟きながら、クレスツェンツはエリーアスを見つめ返した。


「お待ち下さい陛下!!」
 追いかけてくる太守を無視し、クレスツェンツは馬に跨がった。彼女の後ろには騎乗した騎士たちとエルツェ公爵家の兵士が剣を帯びて隊列を作っている。
「調査に同行なさるとはあまりにも危険でございます。治安のことだけではございません、万一陛下の御身に病が伝染るようなことがあれば……」
「太守が責任を問われることなどない。兵は充分に連れて行くし、国王陛下にもお文を書いた。わたくしに何かあったという報せが届いたとき、または二十日以内に我々が戻らぬときはそれを王都へ送るがよい」
 すがりついてこようとした太守を振り払い、クレスツェンツは馬腹を蹴った。
 騒ぎのために立ち往生している調査団を追い越し、クレスツェンツと兵士たちが先にペシラの門を出る。
 先頭に立つ彼女の隣に並ぶのはエリーアスだ。彼がいれば、調査団のあとをついていかなくてもブレイ村へたどり着ける。
 落雷のあった方角と村が、無関係ならそれでよかった。クレスツェンツは当初の予定通り、村に物資と薬を届けるだけのこと。
 そしてふたりに会う。
 何度も、何度も、必ずユニカに会わせるとアヒムは手紙に書いてくれた。ただその約束を果たす日が、そして「また」と言って別れたあの日の続きがやってくる。
 それだけのはずなのだから。

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