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V


 いざ交渉すべき相手が決まると、クレスツェンツの行動はやはり早かった。
 まずはヘルツォーク女子爵に連絡を取り、事情を話して医官長と大学院の学長に接触したい旨を相談した。彼女も自分の上役を説得する必要を感じていたそうなので、二人への根回しは任せておけと言う。
 それでもクレスツェンツはじかに医官長らへ手紙を書き、またオーラフの手紙も彼らへ届けた。
 一方のオーラフだが、「施療院の院長は私がなんとかする」と言っていた通り、彼も早速行動に移った。
 どういう手を使ったのかは知らないが、元院長を半月もしないうちにその役職から異動させ、代わりに穏やかなだけで足腰すら弱っている老導師を長に迎えたのである。
 そして彼自身が副院長の座に納まり、施療院を実質的に動かすのはオーラフということになった。それに伴って彼は導師の位階も授けられた。
「以前の院長は施療院の運営にあまり関心がなかったのですよ。むしろ閑職に回されたと思っていらしたので、余所へ行けばよいと推挙して差し上げたのです。しかし、後任に意欲のある方を迎えるのはなかなか難しく……」
 本当にそれだけだろうか。僧侶たちの間にある派閥争いや出世競争の一端を垣間見た気がして、クレスツェンツは不安げに眉を顰めた。
「何か汚い手を使ったのではないでしょうね。あとあと叩かれるのは嫌ですよ?」
「ご心配なく。アマリア施療院にて勤めを果たす僧医たちの意見をまとめ、導主さまに注進しただけのことです。それから新しい院長に我々の展望を申し上げたところ、若い者たちに任せるとおっしゃっていただきました。そして身に余ることですが、私がその中心になればよいと副院長の役を拝命した、それだけの話」
「はぁ……これで施療院側の意見は『医官や大学院との知識の交流を望む』という方向でまとまるわけですね。それならまあ、よいでしょう」
「姫さまは柔軟に考えてくださるので助かります。アヒムの冷たい視線ときたら……」
 クレスツェンツの隣に座っていたヘルツォーク女子爵ナタリエが、くつくつと喉を鳴らして笑う。潔癖な性格である教え子の顔を思い浮かべているのだろう。
 クレスツェンツも友人がどんな視線をオーラフに向けているのか想像し、その対象が自分でなくてよかったと思った。

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