dear dear

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 三人は王城からの帰途、オーラフを送り届けるため馬車に揺られてアマリア施療院を目指していた。半年にわたって方々へ根回しを進め、今日、ようやく王との対談に持ち込めた、その帰りだった。
 とはいえ王との対談は施療院と大学院の学術・技術交流を認めてもらうための正式な交渉ではなく、直臣であるヘルツォーク女子爵、そしてエルツェ公爵の名代として息子のテオバルトが招かれた、王個人の主催する昼食会という形だった。クレスツェンツとオーラフはおまけで参加することを許されたのみだ。


 形はどうあれ、ナタリエとオーラフはその席で熱心に交流の必要性を説いていた。これが大きな進歩になるかは、正直なところクレスツェンツには分からない。
 なにしろ王は表情の変化も口数も少なく、ふたりの話に耳を傾けているようではあったが、芳しい反応を見せてはくれなかったからだ。
 そしてクレスツェンツはというと、昼食会に同席することを兄が許してくれたものの余計な口をきくなと厳命されており、ふたりと一緒に王を説得することには参加させてもらえなかった。
 クレスツェンツが勝ち気で出しゃばりで、普通の姫君に求められるおしとやかさなど持ち合わせていないことを、兄はどうしても隠したかったらしい。
 ふん、そんなもの、今隠したところで結婚してしまえばバレるに決まっている。
 とは思いながらも、クレスツェンツは命令に渋々従い、黙って料理をつついていた。
 とにかく暇だったので、とにかくじっくりと、クレスツェンツは王の顔を観察していた。彼がナタリエとオーラフの話をどう受け止めてくれているのか気になって仕方がなくて。
 けれどあまりにも王の反応が薄いものだから、彼女はだんだんと上の空になっていった。
 そうして気がついたのは、王とほとんど目が合わないなということだった。
 わたしは本当にこの方のところへ嫁ぐのだろうか。
 淡い緑の瞳と視線が絡むこともほぼないまま、クレスツェンツは考えた。
 王は三十代も半ば。確かクレスツェンツより十八も歳が上だったはず。
 親というには少々若いが、親といえなくもない歳の王を見つめ、クレスツェンツは「ううむ」と内心で唸った。
 勤勉で国政に情熱を注ぐ王からすると、クレスツェンツなどただの小娘ではないか。果たして、自分は伴侶として彼に釣り合うのか?

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