dear dear

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「医官長と、学長に接触すれば良いのでしょう?」
「そうですね、ひとまずは」
「何を言いさしておやめになったのです? オーラフ様」
「まあまあ、いずれはたどり着くところです。まずは医官長様と学長殿の方からお願いします」
「いずれはたどり着くなら目標は知っておいた方がよい。何が言い辛いのです。貴族相手のことなら任せて下さい。誰とでも話をしてきましょう」
 クレスツェンツは立ち上がってオーラフに詰め寄った。
 施療院への協力者を探すことについてこんなにやる気を見せるのに、どうして自分の役目とは何か≠セなんて悩むのだろう。
 アヒムは少しだけ呆れながら友人の後ろ姿を見上げる。
 彼女はこうしてずっと施療院に関わればいいのだ。いずれ去る自分とは違って。
 アヒムにも上手く言えない思いがあることは知らないで、クレスツェンツはオーラフをしどろもどろにさせている。
「いえいえ、もしかしたらこの発言は姫さまの気に障るかも知れませんから」
「オーラフ様とは長い付き合いです。多少のことなら怒りませんとも」
「ほほう。……では、多少のことではなかったときのために、姫さま以外には聞こえないようにしましょうか」
「アヒムにも?」
「念のため」
 アヒムを振り返ってみると、彼は面白くなさそうな顔をしていた。
 しかしオーラフがそれで口を割ってくれるのだから仕方ない。クレスツェンツは耳を貸して、と言う僧侶に大人しく従う。
 そしてぼそぼそと遠慮がちに吹き込まれた囁きに大きく目を瞠った。
「……」
「やはりお気を悪くされましたか」
 しばらく呆然としていたクレスツェンツだが、やがて気遣わしげに眉尻を下げるオーラフを見上げて首を振った。
「いいえ。なるほど確かに。最後に『よい』というお返事をしていただかねばならないのは、国王陛下です」
 医官は、王を頂点とした政治の仕組みの中に存在するものであるし、大学院は王家の私設学院だ。どちらの方針も、最終的に決裁するのは王である。
『あなたが王妃になることを見越して、国王陛下とも交渉を――』
 近い将来、手にする王妃の座。約束されている王の妻という身分。手っ取り早いとはいえないかも知れないが、ただの貴族の娘より一歩も二歩も王に近いクレスツェンツなら、彼に接触する口実などいくらでも考えられるだろう。
 彼女の立場や血筋、家名は、今でも充分に人々を動かす力を持っている。それを施療院のために使っていいのなら……。
 ああ、アヒムが言う通り、その座についても自分はここにいられるのかも知れない。
 クレスツェンツはようやくその糸口を見つけた気がした。
「陛下に話を通すことを目指して、根回しを進めましょう」
ならば、迷ってはいられない。






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