dear dear

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 はっとなり、クレスツェンツは辺りを見回した。
(ユニカはどこだ?)
 やがて戻ってきたエリーアスに、クレスツェンツは駆け寄った。
「墓地には近づけませんでした。遺体置き場にしてたようです。火が回ってなくて、腐った遺体がそのまま……」
「エリー、ユニカはどこだ? 見つけていないのか?」
「え……ユニカなら、先に戻った先遣隊と一緒に街へ連れて行かせました」
「なに!? そんな報告は受けていない!」
 もっとも、ろくに話を聞かず飛び出してきたのはクレスツェンツだったが。
 ユニカがどこかへ連れ去れでもしていたら、それこそクレスツェンツがここへ来た意味がない。
「大丈夫です、信頼出来る同胞に任せてあります。弱ってたし、そのままペシラの教会堂で保護させます」
「……我々もすぐに戻ろう!」
「はい、でも、アヒムを……」
 エリーアスの視線を追い、その先で眠る友の姿を見つけたクレスツェンツは悲しみに顔を歪めた。そして、横たわる彼の亡骸の傍に膝をつく。
「アヒム……間に合わなくてすまなかった。でもまだ終わっていないものな。お前がわたくしに託してくれたもの、必ず守るよ。そうでなければ、何もかも棄てるつもりでここへ来た意味がないもの」
 自分が押し通した無理の多さを思えば、王妃として王城へ帰れるかも分からないし、最悪罪にだって問われそうだ。けれどここまで来てしまった以上、それを後悔して逃げるわけにはいかない。
「すまなかった、傍にいてやれなくて、もっと早く来られなくて。恐かっただろう、お前は結構意地っ張りだから、そんなこと認めもしないだろうが……」
 大好きだった彼の黒髪を撫でる。もう見ることの出来ない緑色の瞳を思い出す。
「あとはわたくしに任せるがいい。ユニカのことはわたくしが守り、大切に育てる。この疫病だって、わたくしが鎮めてみせる」
 投げ出されていたアヒムの手を握り、クレスツェンツは微笑んだ。その手にもすっかり温もりはなく、氷のように固い。
「ここに葬ってやろう。この教会堂は、アヒムが父君や祖父君から受け継いだ大切な場所、村人たちと触れ合った思い出の場所であろう。……あとで、墓標を建てに来てやる。少し待っていてくれ」

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