天槍アネクドート | ナノ
二十シピルと親子の話(11)
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「歳は関係ないでしょうが! あんただっていずれ三十路をまたぐのよ!!」
 マクダから解放されたアヒムは、机に突っ伏して呼吸が出来るありがたさを噛みしめていた。


**********

 ユニカはヘルゲに送られて、夕方の薄暗くなる時間に帰ってきた。マクダに言われたことはちょっと引っかかっているが、レーナに手伝って貰って出来た大きめのケーキを抱え、養父の喜ぶ顔を想像すれば自然と足取りは軽くなる。
「じゃあな」
「あの、あの、送ってくれて、ありがとう」
「親父さん、喜ぶといいな」
 ヘルゲは大きな手で掴むようにユニカの頭を撫でると、少しだけ家の中の様子を覗って、帰って行った。客人がいることを知っていたので、アヒムに声を掛けていくのはやめたのだろう。
 逞しい腕で、ケーキの材料をかき混ぜるのを手伝ってくれたレーナの夫の背中を見送ってから、ユニカはうきうきしながら家の中へ入った。
「ただいま……」
 居間の食卓には、夕食の皿が並び始めており、不機嫌そうなマクダが席に着いていた。厨房では、彼女の召使いとキルル、そしてアヒムが、まだ何か作っているようだった。
「お帰りユニカ、アヒムさんへのプレゼントは巧くできたかい?」
「は、はい」
 むっつりと唇を引き結んでいたマクダだったが、ユニカの顔を見るとにかりと笑って見せた。
「さっきは変なこと言って悪かったよ。あんたはアヒムさんのことが大好きなだけなんだね。あんたの気持ちを疑うようなこと言っちゃったなって、ちょっと心配してたんだよ。怒ってる?」
 手招きされて彼女の隣に座ったユニカは、慌ててそれを否定するために首を振る。
「なら良かった。ああ、良い匂いだね。それに大きいのが出来てるじゃないか」
 ユニカはこっそりと包み布を開き、きれいな黄色に焼けたケーキをマクダに見せた。
「でも、ちょっとぺたんこ……ヘルゲさんが混ぜすぎたんだって、レーナさんが言ってました」
「ああ、あの図体がでかいだけの旦那ね。まったく余計なことを。でも、いい色だよ。アヒムさん、喜んでくれるさ」
「私が、なんですか?」
 そこへスープの乗ったトレーを抱えてアヒムがやって来る。マクダのことは警戒していたが、顔には出さない。代わりに、ユニカの方へと回り込んで、二人の手元を覗いた。今夜は絶対に、マクダの隣に座らないつもりだ。
「これ、導師さまに」

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