天槍アネクドート
さいしょの贈りもの(3)
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 そしてテオバルトはまたしても気づいた。ヘルミーネから話を振られたことがない気がする。少なくとも、彼女は妹のように積極的に質問してくることはない。
 なぜだろう。
「新婚の夫婦とは思えませんね」
 結構深刻に悩んでいるテオバルトの気を知ってか知らずか、妹は大仰に溜め息をついて見せた。
「兄上、すでに嫌われるようなことをやらかしているのではありませんか?」
 妹の言葉は思いのほかざっくりと胸に刺さった。急に寒くなった気がしたのをごまかすように、テオバルトは強い口調で反駁した。
「何もしてない。しようがない」
 しかし、それだけは確かだ。まだ怒らせたことや悲しませたことは一度もない。――喜ばせたこともないが。
「こういうことにはあまり口を出したくありませんが、兄上がお下手≠ネのでは」
「何が」
「夜のお勤めの方……」
 真顔の妹を凝視すること数秒。テオバルトは椅子を蹴倒して立ち上がった。
「おっ、お前っ、何を言うかと思えば……!」
「わたくしだって言いたくて言ったわけではありません! しかし義姉上が嫌な思いをしているなら何か改善しなくてはいけないでしょう!」
「嫌な≠ニか言うな嫌な≠ニか!」
 お互いに唾を飛ばして怒鳴り合ったものの、さすがにこの話題を大声で続けることは憚られた。テオバルトは侍女が起こしてくれた椅子に座り直し、妹も落ち着くためにお茶をすする。
 テオバルトもおかわりを注がせて一気に呷ったが、言われたことの衝撃とそれがもたらす動揺は小さくなかった。
 まさか本当に嫌なのだろうか。テオバルトの触れ方が不快なのか。ヘルミーネは寝室でも大人しいのでそれすらよく分からない。それはどう確かめどう解決したらいいのか。
「まぁ、どちらにしろ」
 咳払いとともに切り出した妹は、兄が内心目を回しそうになっていることには気づかずに続けた。
「兄上はもっと義姉上のお気持ちを知ろうとなさるべきです。それに、悩んだ時に兄上だけがわたくしのところに相談に来られるのは不公平というもの」

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