さいしょの贈りもの(4)
「別に相談に来たわけではない」
ただ、ちょっと愚痴を聞いてもらいに。
そして、息が詰まる新妻の傍から離れるために。
そう思うと腹の中に泥のような罪悪感が湧き上がってきた。
しかし、テオバルトがすべて悪いのだろうか。動く人形のような態度しかとらないヘルミーネにだって非があるのでは。
ちらりとそんな考えも頭をよぎるが、それよりもはっきりしていることがあった。
このまま新婚旅行に突入したら、自分達の溝は埋まるどころか巨大な断層に姿を変えてしまう。
それはいけない、と理解しているあたり、自分はまだ正気だ。
妹の元を辞したあと、テオバルトは親しい友人でもあるこの城の主を訪ねることにした。
***
歳は離れていたが、弟達を亡くしていた王はテオバルトが子供の頃から傍に置いて可愛がってくれていた。それは今も同じで、急に拝謁を求めても都合がつけば許してくれる。
テオバルトは顔で遠慮しながら王の執務室を訪ね、相談がある旨を打ち明けて人払いをしてもらった。
秘書官も侍官も追い出し、濃いめに淹れたお茶を運んでこさせた王はなおも机の前に座ったままだ。彼はテオバルトには理解できないほど仕事が好きなので、一息入れるくらいの時はそこを動かない。今日は特にテオバルトと会う約束もしていなかったし、つい先日までテオバルトより先に新婚旅行へ出かけていたので、溜まった仕事をこなすためにも、わざわざ移動して長い休憩をする気がないのだろう。
「用意は出来たのか」
言わずもがな、テオバルトと新妻の旅の用意のことだ。国王夫妻の旅も無事終わり、今度は嫡男夫妻のためにと家をあげて準備を進めてくれているので、テオバルトはヘルミーネとともに仲良く出立の日を待つだけでよかった。そう、仲良く。
「ご相談したいことというのは、その用意のことでして」
「何か入り用のものでも?」
珍しくお茶に砂糖を放り込んでいる王に甘えた視線を送りつつ、今度はしっかりと声を抑えてテオバルトは囁くように言った。
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