天槍アネクドート
シングル・ピース(14)
[しおりをはさむ]



「……」
 なんと言っていいのやら分からない。思わず声を漏らして笑ってしまった。
 娘のことを少々自慢しすぎただろうか。このところいつも、クレスツェンツから届く手紙は「早くユニカに会わせろ」と言う言葉で締めくくられている気がしたが、彼女はいよいよ、ユニカと接触するための違う手段を思いついたらしい。
(ちょうどいいかな。ユニカの作文の練習も兼ねて……)
 衣擦れの音が響き、振り返ってみれば折良くユニカが起き上がっている。
「おはよう、ユニカ」
「……」
 小さな唇はわずかに動いたが、彼女はまだ半分夢の中にいるようでほとんど声になっていない。
「君にも贈り物が届いていたよ」
 アヒムがそう言うと、しょぼしょぼしていたユニカの目がだんだんと大きく見開かれていく。
「おいで」
 手招きすれば、彼女は毛布をはねのけるようにしてベッドを飛び降りてきた。いつもアヒムのもとへ届く手紙を興味深そうに眺めていたので、自分のところへ何か届いたことがよっぽど嬉しかったのだろう。
「どうぞ」
 箱ごとペンをユニカに渡すと、彼女は「わぁ……」と感嘆の溜息を吐いた。
「きれい」
 そして恐る恐る手にとって、軸の中に金の砂がちりばめられているのを見つけ更に歓声を上げる。
「私とおそろいだよ」
 ユニカが掲げたペンの隣に、アヒムは自分の黒いペンを並べて見せる。再び上がる歓声。頬を紅潮させたユニカは、養父のペンと自分のペンを食い入るように見つめる。
「顔を洗っておいで。朝ご飯を食べたら、これをくれた人にお礼の手紙を書こう」
「はい」
 ペンをアヒムに預けると、小さな娘は勢いよく部屋を飛び出していった。この様子もしっかり手紙に書けば、クレスツェンツはさぞ満足してくれることだろう。
 静かになった一人きりの部屋で、アヒムは何通もある手紙の中からクレスツェンツの手紙を選び出し、封を切った。

 我が友 アヒム・グラウン殿
 ブレイ村に雪は降っただろうか。例年のことながら、アマリアはもう真っ白になっている。風邪が流行りだしたので、そちらでも気をつけるように。
 さてこのたびは、王立大学院の卒業、おめでとう。
 遅くなってしまって申し訳ない。実は貴殿が退学を申し出たときから検討されていたことなのだ。
 わたくしが圧力をかけたわけではないぞ。多くの博士達が、貴殿の卒業を認めるよう国王陛下に申し出てきたのだ。

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