天槍のユニカ



寄る辺なき小鳥(21)

 ディルクと花で競うのをやめたエイルリヒは、自分から見える方のユニカの耳許に水仙を挿し、彼女の様子を窺いながら溜め息をついた。
「ああ、それで本の話を。いかがわしい内容じゃないでしょうね」
「侍女たちは純愛だと言っていたが」
「本当ですか? ……じゃあ僕は何を贈ろうかなあ」
 せせらぎのほとりをたどり、もとの四阿に戻るのにそう時間はかからない。
 四阿で控えている侍官たちの姿が見えてきた頃、考え込んでいたエイルリヒは何かひらめいたらしかった。
「ウゼロの貴族の間では、見舞いのお返しにハーブのリースを贈る習慣があるんです。シヴィロではどうですか?」
「私は、貴族の風習をよく知りません」
「そっか。でも、そうします。大きくてきれいなリースを用意させますから。帰国に間に合わなかったら、中継する街からでも送らせます」
「そこまでしていただかなくてもよろしいのに……」
 苦笑するユニカの手にそれぞれ口づけをして、兄弟は彼女をエリュゼに引き渡した。
 エリュゼは戻ってきたユニカが顔の両側に花簪をつけていることに驚く。ユニカは決まり悪そうに目を反らすが、彼らの手前、花を取ってしまうのも申し訳ない。
「時間を作ってくれてありがとう、ユニカ。帰国前に話が出来てよかったです。また王城に来る機会があったら、その時はぜひお茶に付き合ってくださいね」
 エイルリヒの屈託ない笑顔で言われると、それはあり得ないとも言い切れず、ユニカはぎこちなく笑う。
「では、私はこれで……」
「本を読み終わったら言ってくれ。また贈るよ」
「リースも、待っててくださいね」
 すでに踵を返していたユニカだが、立ち止まり、肩越しに兄弟を振り返った。
 ディルクの挿してくれた薔薇の蕾の向こうに、エイルリヒがひらひらと手を振っているのが見える。

 ユニカが控えめに頷き返すのを見て、エリュゼは気づかれないほどに口の端を持ち上げて笑った。

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