天槍のユニカ



寄る辺なき小鳥(20)

「僕は父上≠ノ、ディルクは母君≠ノ似たんですよ」
「そうでしたか」
「だけど普通は、父親も母親も違う兄弟を兄弟≠ニは言わないのかも知れませんね」
「……それは、そうですわね」
「エイルリヒ」
 棘のある声で、ディルクが会話を遮る。
 彼は怪訝な顔をするユニカに笑いかけると、エイルリヒと同じように近くの花壇に手を伸ばし、薔薇の蕾を摘み取った。
 棘がないかを確認して、水仙が挿してあるユニカの耳許へ同じようにそれを挿す。薄紅色の薔薇と柔らかな白の水仙に飾られ、ユニカの横顔はぱっと華やかになった。
「私は王女の子、エイルリヒは大公の子。国にとっては何の問題もない。それより、君には水仙より薔薇の方が似合うよ。これは捨てよう」
「あー! 何するんですか! ユニカは水仙の方が似合いますよ。黒髪によく映えるしユニカの肌色にも合ってます。ドレスも青いし、下手にピンク色なんか足さない方が」
「色白で黒髪だからこれくらいの明るい色を足した方がいいんだ。それに、この花はユニカの唇の色だろう。ユニカが持っていない色じゃない」
「……」
 お互いに摘んだ花を持って睨み合う二人の世継ぎから目を逸らすため、ユニカは隠すように唇を噛みながら足許を睨むしかなかった。
(賑やかね)
 自分に対して、これほど気後れせずに話をする人間に会うのも久しぶりだ。
 ユニカとて賑やかなのが嫌いなわけではない。
 ただ、親しい人々に囲まれていた幸せな時間はあまりに遠く、今のユニカの周りには、彼女を恐れる者しかいないだけで。
「ユニカ、兄上はあなたに何を贈ったんですか? 命を助けてもらったのに僕がまだお礼をしていないなんて」
「え……。殿下からは……」
 言葉を濁すユニカの代わりに、ディルクが薔薇の花を彼女の髪に挿し直しながら言う。
「本をあげた。庶民の間で大流行の恋愛小説」
「お読みになったことはないって……!」
「あらすじくらいは知っているさ」
 ユニカは赤くなった。これでは安堵していた自分がばかみたいだ。

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