天槍のユニカ



公国騎士の参上(22)

 脳天気な声に呆れつつ、ディルクは肩越しにルウェルを顧みた。
 ラヒアックと似ているところがあるだろうかと、馴染みの顔をじろじろ眺めてみる。が、日焼けした赤毛はひょんひょんとだらしなく跳ねているし、いつもにまにま笑っているルウェルと、上級貴族出身の武人らしく、身なり、表情から雰囲気に至るまでびしっと整えているラヒアックとの間に、共通点は見つけられなかった。
「お前、兄弟がいたんだってな。シヴィロに。聞いたことがなかった」
 近衛隊長が兄だと気づいているのかは分からないので、ディルクは何気なくぼやかして言ってみる。しかしルウェルは飄々と笑いながら答えた。
「いねーよ。俺の兄弟はお前だけ」
「……主人を兄弟扱いするな」
「そう言うなよ、ホントに生まれた時からの付き合いじゃん。で、いつからディルクが近衛隊長になるんだ?」
「俺が就くのは近衛隊長の職じゃない。その一つ上の、新しい椅子に座る」
「へーえ、さらに偉いのか! さすが王子さまだなー。ところで俺が副官?」
「そんなわけがあるか。副官はラヒアックだ」
 ルウェルは無邪気に瞳を輝かせたが、ディルクは前方に視線を戻しながら冷たく否定した。
 こいつにも思い出したくない過去の一つや二つがあるのか、それとも本当にラヒアックらのことは覚えていないのか。
 思えばルウェルは、ディルクの母とともに公国へやってきた時のことやそれ以前のことを一切口にしなかった。ディルクが生まれる前のことだったし、自身も触れたくない時代のことだったので尋ねようとも思わなかったが――これはやはり、推測の前者が当たっているのかもな。
 ディルクがそんな思案をめぐらせる一方、期待を裏切られたルウェルはきっと目をつり上げ主の肩を掴んだ。
「じゃあ俺の仕事は!? まさか本気で剣取り上げるつもりじゃないよな!?」
 ルウェルの剣の柄でその手を払いのけたディルクは、やかましい声に顔を顰めながら溜め息をつく。
「叫ぶな、うるさい。たまには、お前の独断行動をいかした仕事をさせてやる」
 次は王の許へ行って、昨日の襲撃について弁明をしなくてはならなかった。忙しいところ時間を作ってもらったので、遅刻するわけにはいかないディルクは騎士を押し退けドンジョンへ向けて歩き出す。

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