天槍のユニカ



公国騎士の参上(21)

     * * *

「ディルクってさぁ、王子さまになったんだよな? なんでヒラの兵になんかに頭下げてんの。俺の想像では、ふんぞり返ってくるしゅうないちこうよれ的なことが出来るようになったんだと思ってたんだけど」
 ルウェルの一歩前を歩いて兵舎を出てきたディルクは、ぴたりと足を止めて振り返った。
「ルウェル、剣を出せ」
「ん? はい」
 今朝返されたばかりの長剣をベルトから外し、彼は何も疑うことなく主に剣を差し出した。
「没収」
「んなっ!? 何でだよ! それ俺の仕事道具なんだけど!」
「心配するな城の中は平和だお前が大人しくしていればな」
「うわあ、棒読み。いや、悪かったって。でも俺の気持ちも分かってくれよ。嬉しかったんじゃん、お前が国中から歓迎されてるみたいでさ」
「だからといって城門を破るばかがどこにいる。『ここ』なんて言ってみろ、殴るぞ。衛兵隊と近衛隊の面子は丸潰れ、俺の管理統轄能力は疑われる、人が必死で新しい場所に馴染もうとしてる時にお前達は……」
 ついつい溜まっていた色々なものが溢れ出しそうになり、ディルクははたと我に返って黙った。ルウェルの剣はもちろん返さないまま、この話題を終えるために踵を返す。
「お前達? 俺は単独犯だったんだけど」
 首を傾げながらついてくるルウェルに教えてやるつもりはないが、ディルクがなじりたいもう一人の相手は勝手に毒を飲んで死にかけたエイルリヒのことである。
 行列の襲撃から一夜明けて。
 ディルクは営倉から解放したルウェルを伴って、宣言通り負傷した兵と騎士を見舞いに行った。ルウェルの悪戯心溢れる暴挙によって負傷した面々に言葉をかけ、回復したあとに戻る場所があることを保証しておくためだ。
 ディルクとルウェルが親しい間柄であることはじきに周知の事実となるだろうから、こうでもしておかなければ連鎖的にディルクまで反感を抱かれかねない。
「でもそうかー、お前も必死か。城下で小耳に挟んだんだけど、お前、近衛隊長になるんだろ? 王家の軍の一番のお偉いさんじゃん。おめでと。昨日俺を踏みつけたおっさんが現職の隊長らしいけど、あんなむさいのよりディルクが上官のほうが士気が上がるよなー」

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