天槍のユニカ



春の在り処は(7)

「いや、もう少し」
 そうは言いつつ、少女達は三度にわたってディルクの要望に応えてくれたので、ユニカの手の中の花束は色彩を増して肥えた。どれもふわふわした花びらを自慢するようにユニカを見上げてくる。
「たくさんありがとう。彼女も喜んでくれているよ」
 ディルクに労をねぎらわれた少女達は一仕事終えて頬をほんのり紅くしている。その昂ぶった気分のまま期待のこもった顔を向けられて、ユニカはどきりとした。
 こういう時は、ちゃんと嬉しそうな顔をしてお礼を言わないと。
「あ、ありがとう」
 あんまり熱心な視線を向けられるので上手いこと笑顔を返せなかったが、怪訝そうな顔をした少女達はディルクからお礼の花を髪に挿してもらうと機嫌よく去っていった。
 二人を見送り、ディルクはユニカに渡した花束を取り上げて自分のもらった花と合わせ、クラヴァットを解いて丁寧に包む。
「改めて、どうぞ」
「……人に摘ませておいて」
「いいじゃないか、楽しんでくれたみたいだし」
 ちらりとエリュゼの方を窺ってみれば、ディルクに花を挿してもらった少女達はしきりにそれを自慢している。さぞよい思い出になることだろう。
 それならいいか。そう思い花束を受け取ると、またもや彼がにやりと笑った気がしたのでユニカは唇を引き結んだ。
「さっきといい、なぜ笑うのですか」
「君こそ、どうしてこうもすんなり花をもらってくれるんだ?」
「――別に、だって、……ただの花ですから」
 言われて初めてディルクからひょいひょいと花をもらっていることに気づいた――その動揺が大きすぎて声が引き攣れる。
 でも、そうだ、ただの花だし。侍女達だって部屋に飾る花をどこからか集めてきてくれる。西の宮の庭にもいろいろ咲いていて、ユニカが好きに摘んで持っていっていいことになっている。これもたまたまたくさん咲いていたのをもらっただけで、くれたのがディルクというだけで、だからただの花だ。落ち着こう。
「まぁ、そうだけど、ちょっとした目隠しに出来そうだな」
 そう思った矢先、花束を握りしめていた手がふと浮き上がった。いつの間にか添えられたディルクの手がそうしたのだ。

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