天槍のユニカ



春の在り処は(6)

「でんか、どうぞ」
 たどたどしい発音はエリュゼに教えられたのか、彼女たちは競うようにして花束を突き出してきた。二人とも、お目当てはディルクらしい。
「私に?」
「はい!」
「ありがとう」
 ディルクが花束を受け取ると、二人は頬を染めながら満面の笑みを浮かべる。女の子というのは一度はこういう青年に憧れるのだろうか。自分の中にあるディルクの第一印象は「歩く厄介ごと」だったので、ユニカはいまいち共感できずに、ユニカの存在など目に入ってもいない彼女らをしげしげと眺めた。
「よかったら、私の隣にいる人にも君たちが摘んでくれた花を贈りたいんだが」
 当のディルクは、少女達の夢を壊さない澄ました笑顔でそんなことをのたまっている。
「あまりたくさん摘んではいけないのではありませんか?」
「勝手を知っているエリュゼが何も言わないんだから、多分大丈夫だろう」
 よく手入れされた庭へ飛んで戻る少女らを横目に、ディルクはもらった花束の中から青色のアネモネを抜き取って差し出してきた。
 そういうものかなと思いながらユニカは花を受け取った。指先で柔らかな茎を転がしているとなんとなく視線を感じ、隣の人を見遣れば、彼は自分の花束をもてあそびつつこちらを見ている。どこかにやにやしているのは気のせいだろうか。
「なんですか」
「気分がいいなと思って」
「……そう」
 意味が分からず眉を顰めるユニカは、自分がなんのためらいもなく花を受け取ったことに気づいていない。
 そのうち片方の少女が新しい花束を持ってやって来た。さっきの花束よりいくぶん小さいので、量より早さを優先したのだろう。すると後れをとったもう一人も走ってきて負けじと花束を差し出す。
「いいね。黄色い花はなかったかな。あと、淡い紫のも」
 ディルクは二人が運んできた花を検分し、図々しくそんなことを言った。もらったばかりの花は、すぐにユニカの手へ。
「これで十分なのに」

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