天槍のユニカ



相続(17)

「エリュゼから預かっていたゼートレーネにおける諸々の権利書です。お返ししますので、姉上もよく目を通しておかれますように」
「はい……」
 エリュゼとディルクに言われたから分かっていたことではあるが、これはどうやら本当にユニカが行くしかなさそうだ。しかし、くだんの土地に関する情報を頭に入れておいてくれたということは、
「代理人の話は、カイが引き受けてくれるの……?」
 恐る恐る尋ねると、尊大な弟はふんと鼻を鳴らした。
「いつまでも家臣ではないエリュゼに預けておくわけにはいかないでしょう。あなたの面倒くらい、私がみます」
 頼もしいくらい偉そうなカイの言葉に、ユニカはやはり恐々としながらお礼を述べるしかない。
「ですが、私には父上から任されている分の当家の領地視察もあります。六月の大霊祭までにはすべて終えておくことを考えて予定を決めておきましょう。四月の半ばがよいのですが、いかがですか」
「四月……!?」
 もう二月も終わりだ。四月などあっという間ではないか。
 驚くユニカを怪訝そうに見つめたあと、カイは「ああ、」と溜め息に似た声をもらした。
「姉上にはなんの予定もないでしょうね。では四月の中頃ということで。アマリアを出立する日取りではありませんよ、ゼートレーネに到着する日取りが、です」
 ということは、片道五日ほどを要すると聞いているから、四月に入ればすぐに城を出ることになるだろう。
 ますますあっという間だ。
 それまでに心の準備が整うかどうか。
 ユニカの不安はカイには想像もつかないほどどうでもいいものだったようで、エリュゼも彼と同じらしかった。
「お待ちください。実は王太子殿下に警護の手配をお願いしているのです。旅の時期はご相談申し上げないと……」
 話を止めてくれるのかと思ったが、エリュゼの口から出たのはユニカの期待とまったく異なる意見だった。
 カイはむっと唇を引き結ぶ。それくらい自分でやれ、とでも言われるかと思ったが、意外にも彼はあっさりと口許を緩めた。

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