天槍のユニカ



相続(15)

「だから姉上のお顔でも見なくちゃ元気が出ないと思って」
 曰く、彼は今日、ディルクに剣の稽古をつけてもらう約束をしていたそうだ。それが、東の宮まで尋ねていったところでディルクに急な来客があり、約束を果たすのは先に延びてしまったらしい。
「それで兄上を追いかけてきたら公女殿下にもお会いできたでしょう。姉上にも会えたし、二ついいことがあったから、これでいいや」
「あら、あたしもよ。ユニカとも遊べる上に、アルフとも遊べるんだから」
 部屋へ入ってきた時にはしょんぼりしているように見えたアルフレートだったが、ユニカに慰めてもらい、おやつを食べて満足したそうだ。加えて、彼はすでにディルクの代わりを見つけていた。稽古の相手はレオノーレが務めてくれるらしい。
「さて、それじゃあ着替えてくるわ」
 レオノーレの皿も空になった頃、滞在している迎賓館まで戻らせたという侍女達が公女の騎士服を携えて戻ってきた。
 彼女らとともにレオノーレが部屋を出ると、アルフレートはそれでも声を顰めてユニカに耳打ちしてくる。
「公女殿下は、敵の返り血を浴びすぎたから髪が赤くなってしまったんだと聞いたことがあります。本当かな?」
「……けがをしないようにね」
 やんちゃな年頃のせいか、アルフレートの口調には物騒な公女の評判を恐れている気配もない。むしろどこかわくわくしながら頷くと、上着を脱ぎ自分の剣を持って、芝生も美しく生えそろってきた庭へ飛び出していく。
 ほどなくして着替えたレオノーレも剣を携えて庭園に現れた。
 離れて見ていても、普段どうしてドレスを着ているのだろうと思えてしまうほどレオノーレには騎士の出で立ちがよく似合っていた。黄金と真珠と紅玉の飾りでまとめていた髪も無造作にくくっただけなので、細身の青年にも見えるくらいその立ち姿は凜々しい。
 しかし、ユニカが稽古を始めようとする二人を露台へ出て見守っていることに気づくと、レオノーレはいつものように茶目っ気と自信に溢れた華やかな笑みで手を振ってきた。
「さあアルフ、気合いを入れてとりあえずかかって来なさい。あたしは教えるのも手加減も下手なんだから、必死でやらないと地面に転がされるところばっかりユニカに見られちゃうわよ」

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