相続(14)
彼らのささやかな攻防を横目に窺っていたユニカは、感激のステップで躍りかかってきたレオノーレに気がつくのが遅れた。思わず悲鳴を上げるが、公女はお構いなしで首にかじりつき滑らかな頬をこすりつけてきた。
「ああ、ユニカだわ! 会いたかった!」
花束を思わせる香水の華やかな香りがレオノーレの髪と一緒に鼻先をくすぐってくる。ユニカはいつも以上に過激な喜びの表現に戸惑いつつ、自分が刺繍針を持ったままであることにぎょっとした。
「ちょ、ちょっと待って、針を持っているのよ」
「なぁに、何して遊んでたの?」
物見高いレオノーレの瞳がきょろきょろと机の上を見渡す。ユニカはなんとなく彼女に針を持たせることが(エリュゼに持たせること以上に)不安に感じたので、フラレイを呼んでさっと道具を片付けてもらった。
「久しぶりね、レオ」
「そう言うならもっと喜んでよ。あのね、久しぶりにくだらない用事のない日が出来たから絶対ユニカと遊ぼうと思って。そうしたらカイとアルフを見つけたじゃない。二人もユニカのところへ遊びに行くって言うから、これは同行するしかないでしょ」
声高に来訪のわけを教えてくれたレオノーレは、彼女のように驚喜出来ないユニカの分まで喜ぶようにさらに力強く抱きしめてくれる。
そんな彼女の身体の向こうに少年達が佇んでいた。カイが来ることは分かっていたが、アルフレートも一緒とは。
カイは相変わらずつんとすました顔をしているが、隣にいるアルフレートはどこかしょげていた。
「カイがお菓子を持ってきてくれたのよ。お茶にしましょ」
それは多分、いつも彼がユニカのために用意してくる手土産のことだろう。
「それは……残念だったわね」
アルフレートがカイについてきたいきさつを聞き、ユニカが同情の言葉を述べると、幸せそうに口の端についたシロップを拭いていた小さい方の弟は再び大げさに落ち込んで見せた。
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