天槍のユニカ



相続(9)

 まあ、いい。ユニカのためなら、理由だろうと小細工だろうと、いくらでも用意してやる。

     * * *

 ユニカがもっと忙しくなったのはそれから二日後のことだ。パウルとエリーアスを経由して施療院から布が届き、とりあえず枕を包む布を二十枚、縫ってみてくれということだった。
 仕上がりの寸法と枕を出し入れする口の作り方がきっちりと指定され、「見本と同じものが出来れば縫い方は任せるが、布は無駄にしないで欲しい」と書かれたオーラフ院長からの手紙を読み終え、ユニカはふむ、と頷いた。
 見本を見たところ、まっすぐ切ってまっすぐ縫うだけである。これならいくらでも作れそう。ユニカはそう思い、それからさらに二日を縫いものに捧げた。
 幸いにもパウルからのお誘いはなく、作業に没頭できたおかげでしばらくやっていなかった縫製の勘も戻ってきた。それでもいくらか縫い方を変えては試してみたので、オーラフからもらった布で作れた袋はやっと四枚だった。
 エリュゼが言うには、施療院の寝具に使う布はあえて真っ白な木綿でそろえてあるらしい。時にはそれに付着する様々な汚れが患者の体調を判断するのに役立つのだとか。
 なるほどと思いつつも、あまりに真っ白で目がチカチカする。
「端の方に少し刺繍を入れてはだめなのかしら」
「それくらいなら構わないかと思いますわ。お花の模様が入っていたりしたら、使う方の心も和むでしょうし」
 快く賛同してくれたエリュゼも刺繍を習いたいと言うので、今日は二人で色糸を通した針を持ち、黙々と手を動かしていた。ただし、エリュゼは練習用の端布使用である。
 ユニカは自然と紫色の糸を選んでラベンダーの花を縫い付ける。穂のような花は形を整えるのが意外と簡単だし、単純な意匠にすれば糸も二色で済む。それに、ラベンダーは安らかな眠りを誘う花でもある。
 いろんな理由を考えつつも、ユニカはすぐに縫いつけ終わった花の模様を確かめ、急にこみ上げてきた懐かしさにふと笑った。
 ブレイ村にいた頃もこの刺繍の匂い袋を作っていたし、王城に来てからもいくつか作って王妃にあげたことがあった。
 これを使う人がよく眠れますように。

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