天槍のユニカ



相続(5)

 そのきょとんとした様子が可愛らしく、またエリュゼが振ってきた話もなかなか興味深かったので、ディルクはくつくつと笑った。
「力添えか。具体的には警備の兵を王家から出せということだな。その相談≠ヘエルツェ公爵からか?」
「おっしゃるとおりです」
「兵を動かす金に困ってなどいないだろうに。公は存外けちだな」
「王家のご厚意で、現在ユニカ様のお身の周りを守るために近衛騎士の方々が警備についてくださっております。その方々がいてくださった方がユニカ様もご安心なさるだろうとのことですわ」
 そう言いながらエリュゼがユニカの反応を覗い、次いでディルクもそれに倣う。二人に見つめられたユニカは未だに話の意味を分かっていないようだが、自分にとって不穏な雨雲が近づいていることだけは察知して顔を顰めていた。
「当のユニカが分かっていないようだが」
「ユニカ様、先日お話しした相続法のことです。領地を相続した新領主は三年以内に現地へ行くか正式な代理人を立てて派遣し、その土地を治める意思があることを示さなくてはなりません」
「それは、覚えているわ。王妃様が私にくださった土地のことでしょう。あなたが代わりに管理してくれていたと言っていたじゃない。これからもそれでいいわ」
 ようやくことを理解したユニカは複雑そうだった。王妃クレスツェンツがユニカ個人にいくらも財産を譲る手続きをしてあったのは、ディルクもエリュゼを通して聞き、また確認出来る範囲で書類を検めているから分かっている。王家の私財が流出したわけだが、莫大な額ではなく、ユニカが王家の保護を失っても生きていけるように……そういう願いを汲みとれる程度のささやかなものだった。
 ユニカとてそれを迷惑に思っているわけではないだろうけれど、貴族の法に則ってそれを管理すること――領地へ足を運ぶことにはどうしても食指が動かないようだった。無理もない。ようやく教会堂の知り合いのところへ出掛けるようになったくらいなのだから。
「わたくしは管理人であって代理人ではありませんし、ユニカ様の代理人になる資格もございません。代理人はユニカ様の次にその土地の主になる権利がある方でなくてはいけませんもの」
「……誰がその権利を持っているの?」
「さしあたり、エルツェ公爵家の方々でしょうか」

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