天槍のユニカ



『娘』の真偽(24)

 少しばかり動揺してしまったことを恥じながらティアナは苦笑した。
「陛下は、やはりユニカ様に特別な思いを寄せていらっしゃるのですね。あんなに歓迎していらした殿下にまで、お言葉にも容赦がなく……」
「そうだな」
「何です? 叩かれただけじゃなくて、何か言われたんですか?」
「お前たちはそろって耳が悪いのかと」
 ディルクは淡々と答える。
 言われたことを気にしてはいないが、王の激昂ぶりには少々戸惑った。王太子として、王との仲が拗れるのはよろしくない。あとで謝罪すべきか、それともほとぼりが冷めるのを待つべきか。迷うところだが、ここは後者がよいのではないだろうか。
「じきに耳が遠くなるのはお前だと、言い返さなかったんですか?」
「言ってない」
 面白い反論の仕方だ、機会があればぜひ使おう。ディルクは密かにそう思っただけで、エイルリヒから酒を取り上げたあともちょこちょこと働いて回るティアナの姿を目で追った。
 ティアナやその父が多くの情報を集められるのは、ひとえに王からイシュテン伯爵家に寄せる信頼が厚いからだ。ディルクやエイルリヒはそれに頼りたいところで、今日の温室への案内や侍女の呼び出しも任せてしまったが、王はティアナがすべてを手引きしたことに気づいているらしい。
『城内に放った猫どもをいつまでも歩かせておくな』
 そしてあの言葉は、エイルリヒの飼い猫、すなわちウゼロ公国の使節団の中に紛れ込んでいたマティアスの配下のことだろう。この城には外から入り込んだ猫の動きによく気づく、素晴らしい番犬がいるようだ。
 城内のことをすべて把握できる王は強い。自分で臣下を選ぶことが出来る。
「ティアナ、お前には三日ほど暇を出す」
「えっなんで?」
 瞬時に振り返ったのはティアナだが、間の抜けた返事をしたのはエイルリヒだ。
「顔の腫れが引くまで出てこなくていい」
「殿下……ですが」
「そんな顔で仕事をされては俺が手をあげたんじゃないかと疑われる。休んでくれ。しばらくは動かないことにする。そうだな、十日くらいは」

- 63 -


[しおりをはさむ]