『娘』の真偽(23)
天秤は揺れ、和は損なわれた。
ユグフェルトは隠していたカードを切る。
次にユニカを害そうとする者が現れた時、クレスツェンツの残した守護が刺客の前に立ちはだかるように。
ユニカはそれを固辞するだろう。
しかしユグフェルトは、愛する王妃の選んだ娘を、形見を、失いたくない。
たとえ彼女に烈しく憎まれているとしても。
* * *
「だからって! 叩かなくてもいいのに!!」
ディルクが就寝の準備をしているその横でエイルリヒはディルクのために用意されたハーブ酒をちびちびと舐めていた。ほんのりと甘いのが気に入ったらしい。
寝間着に袖を通したディルクも、エイルリヒの向かいに腰を下ろしてハーブ酒の杯を手に取る。
「寝る準備をしないか、弟よ」
「誰のために僕の帰りがこんなに遅くなったか忘れたんですか? 代わりに夜会に行ってあげてたんですよ、どこかの王太子が女の子の寝顔を眺めてにまにましている間に、お詫びのお土産をいっぱい持ってね!」
「ん、ご苦労」
「――殴られたいようですね」
エイルリヒは殴りかかる前に手にした杯を投げかねない形相だ。
ディルクの衣装を片付けたティアナがそろりとエイルリヒの背後に近づき、後ろからその杯を取り上げた。
「エイルリヒ様、酔っていらしたのですわ。早くお帰りになってお休みくださいませ」
そう言われて振り返ったエイルリヒは、まるで自分が痛みを堪えるように顔を歪める。
ティアナが左頬に大きな湿布を貼っていたからだ。ディルクから事情を聞いた彼は激怒した。
「嫁入り前の娘の顔に手をあげるなんて、どこが賢君なんですか!」
「仕方がありません。わたくしは陛下からのお言いつけを無視しましたもの」
王が廷臣や官人に下す言葉はすべて命令である。ティアナは分かっていて背いた。背けば王が怒ることも予想はしていた。ただ、手をあげられるとは思っていなかっただけだ。
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