天槍のユニカ



『娘』の真偽(21)

 ずいぶん長い間眠っていた……幾度も短剣を突き立てられる感触を思い出し、ユニカは瞼を伏せた。
「わたくしの方こそ、申し訳ありませんでした」
 ディルクの入城時、使節団の前に姿をさらしてしまったことを謝る。
 すると王も、微かに首を横に振る。
 今日はそれ以外、互いに話すこともなかった。

     * * *

 ユニカのもとを退出して柱廊を歩き、しばらく。ユグフェルトは突然呟いた。
「明日、マグヌス導主のもとへ書簡を届けよ。その場で判を貰い、急ぎ持ち帰るのだ。そなたが直接行け」
「おおせのままに」
「それから、」
 まだ三十路に届かない若年の侍従長は、ユグフェルトが口に出すか迷っている言葉が何かをすぐに察した。
「城内で刃傷に及んだ者の捜査でございますか」
「――いや。よい」
 ツェーザルは主の背を追いながら苦笑する。本当に、あの娘は王をひどく惑わしてくれる。迷惑なものだ。
 ユニカを襲った犯人を探し出すことは出来ない。罪状がないからだった。
 ユニカはいない者=B王の力でいない#゙女を傷つけた罪を問うわけにはいかないのだ。城内の秩序のためにも捜査したいところだが、動けない。ユグフェルトはしばし苦悩して諦めた。
 ドンジョンの北側にある王の居住区に戻ると、ツェーザルは侍女に言いつけて用意させておいた温かい葡萄酒を就寝前の王に差し出した。
「明日は午前からアーベライン伯爵と会見のご予定が入っております。そのまま閣僚の方々と定期昼食会。バシュ領邦からあがっている水害の復興報告書と、同じ水害で破損したコンツドット大橋の修復予算への決裁印は明日までにお願いいたします。……ので、あまり夜更かしはなさいませんように」
 ユグフェルトが机の引き出しから書類を取り出すのを見て、ツェーザルはそう付け加えた。

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