『娘』の真偽(20)
いつものように毅然として釈明するのかと思ったら、ティアナはか細い声で謝罪しただけだった。エプロンを握る手が細かく震えている。彼女ですらまずいと思うほど王は怒っているのか。
退いた方がいいのかだろうか。しかし、
「お許しもなく西の宮へ立ち入ったことをお詫びいたします。ですが、あの姫君はどちらの――」
「見え透いた嘘はやめよと、先ほど言ったはず。そなたらはそろって耳が悪いのか」
王はその場に跪いたままの二人を残し、寝室の扉に手をかけた。そしてこう言い捨てる。
「城内に放った猫どもをいつまでも歩かせておくな。今後、余と娘の許しなく西の宮へ立ち入ることは、してはならぬ」
王は少しの音も立てずに寝室へ入り、扉を閉めた。それは紛れもなく中で休んでいるユニカに対する配慮である。
王の消えた扉を見つめるディルクに、侍従長ツェーザルが笑いかけた。
「お引き取りくださいませ、王太子殿下」
怒り、不快感、そういうもので胸をざわつかせながらも、ユニカは怠さと痛みに任せ再び眠ろうとしていた。
そこへ聞こえてきた騒がしい声。王太子と、もう一つは王の声だろうか。
首だけ動かして主室へ続く扉を見つめていたら、静かにそれが開く。
やっぱり。
入ってきたのは王だった。
ユニカは起き上がろうと思ったが、彼女が微かに動いたのに気づき、王は先にそれを制した。
そして寝台の傍にあった椅子に腰掛ける。横になったままこちらを見つめてくるユニカを見下ろし、王は呟くように言った。
「すまぬ」
何に対しての謝罪であるか説明はなかったが、ユニカはその言葉を受け入れた。
「いいえ」
そう言えば、「今夜は会える」というカードが届いていたことを思い出す。燭台一つの明るさでは少し離れたところにある時計が何時を指しているのか見えなかった。けれど王がやって来たということは真夜中に近いのだろう。
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