天槍のユニカ



『娘』の真偽(19)

 やがて角を曲がって現れたのは、侍従を一人伴った王だった。
「陛下……」
 呼ばれて立ち止まったその人は自ら手にした灯りを掲げ、自分を呼んだ声の主が誰であるかを確かめた。そしてくすんだ金の口髭の奥から唸るように言った。
「ここで何をしている」
 ディルクはとっさに答えられなかった。
 数日前、立太子式の前後に見せてくれた身内を歓迎する温かさが、王の声音からまったく感じられなかったからだ。王は、怒っていた。
(まずい――か?)
「何をしているかと聞いておる」
 再度重苦しい声で問われ、ディルクはようやく困惑の表情を作りその場に跪いた。
「先ほどこちらの宮の主が、温室近くの柱廊で衛兵の姿をした何者かに襲われるのを目撃いたしました。襲われた方を介抱させるため私がこちらへ運び……重傷でしたので、気にかかり様子を見ております」
 ふ、と鼻で笑うのが聞こえる。
「見え透いた嘘を言うでない」
 そう言うと、王はディルクの脇を素通りしていく。ユニカの部屋へ向かうつもりのようだ。
「……陛下」
 呼び止めるが、無視される。てっきり立ち去るように言われるのかと思ったがそれもなく、彼はディルクが来た道を進んで行ってしまう。仕方なくディルクもその後を追った。
「ティアナ」
 迷うことなくユニカの部屋にたどり着いた王は、主室で薬の瓶を片付けていたティアナを呼びつける。
「はい、陛下」
 すぐにその傍へ駆け寄り叩頭した彼女が顔を上げた瞬間、王はその頬を力一杯はたいた。手加減がなかった証に、ティアナは吹き飛ばされるように床に倒れ込む。
「陛下! 何も手をあげることは……」
「ディルクをここへ近づけるなと、申しつけてあったはずだが」
 ディルクに助け起こされたティアナは微かに肩を震わせた。
「申し訳ございません……」

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