天槍のユニカ



『娘』の真偽(15)

 あまり手荒な真似はしたくないのだけど。
 そうは言うがエイルリヒの足取りは軽かった。
 まず叩き潰すのは、年老いた強欲な女侯爵だ。

     * * *

 近くに誰かいる。人の気配が動く。
「殿下、お食事をしに一度お部屋へお戻りください」
「いや、いい。彼女が目を覚ますまで傍にいないと」
「本日中にお目覚めになるかは分かりませんわ。とても重い怪我ですもの」
「夜明けくらいまでならここにいてもいいだろう。さっきから何度も目を開けてはまた眠ってるんだ。もうしばらく様子を見たい」
「ですが、それでは殿下のお身体に障ります。ご昼食も召し上がっていらしゃらないのに」
「――あ」
 天蓋がめくられ、ユニカは突然目に入った灯りが眩しくてぎゅっと目を瞑った。片目だけをゆっくり開けてみれば、見知らぬ若い男が燭台を掲げてこちらを見下ろしている。その少し後ろには若い女官。
 見知らぬ……いや、夢現に見た気がする。何度も汗を拭ってくれたり、それから。
「眩しかったか、すまない」
 彼はそう言ってユニカに微笑みかけると、灯りを女官に持たせて寝台に腰掛けた。そしておもむろにこちらへ手を伸ばしてくる。
 ユニカは慌ててその手を払いのけた。すると胸や腹から突き上げるような痛みが全身を駆けめぐる。
「……っあ、う」
 自分を抱きしめるように縮こまって痛みをやり過ごしていると、振り払ったはずの手がそっと背中をさすってきた。なぜこの男がこんなに馴れ馴れしく触ってくるのか分からない。ユニカは痛みを堪えながら彼を睨みつける。
「さっきより意識がはっきりしているな」
 睨めつけられても彼は気にせず、笑いながらユニカの目尻に滲んだ涙を指で拭い取った。
「誰……」

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