天槍のユニカ



冷たい夢(10)

「あたしは恐いわ。地面が動くのよ? 崖なんて簡単に崩れるし、あたしの小さい家なんて今度大きな揺れがきたら真っ先に潰れそうだわ」
 ユニカは芋を切っていた手を止めてきょとんとしながらキルルの横顔を見上げた。
 彼女が何を言いたいのか分からない。
「あんたはいいわね。恐いって言えばアヒムがいくらでもそばにいてくれるんだもの」
「……そんなこと、ない。導師様だっていろんなお仕事があるんだもの。家にいないことも多いわ」
「でも、彼はあんたのためなら、なんとかしてあんたの傍にいようとしてくれるじゃない」
「……」
「ずるい」
 キルルの呟きは鋭く冷たく、無防備だったユニカの耳を刺した。思わず首をすくめキルルを見つめると、言った当人も気まずそうにそっぽを向いてたまねぎの皮をばりばりとはがし始める。
「……地震が怖いなら、今夜は導師様のところに泊まればいいわ。わたし、頑張って自分のベッドで寝るから」
「そ、そんなこと出来るわけがないでしょ!!」
 怒られた、と思ったユニカはまた首をすくめた。手許が揺れて芋の切れ端がころころと床に転がっていってしまう。
 するとキルルはやはり気まずそうに、しかしそれをごまかすように腹立たしげに鼻を鳴らし、芋を拾い上げた。なぜか耳まで真っ赤である。
「いい? あたしがこんな大人げないこと言ってたなんて、アヒムには言っちゃだめよ」
「導師様には……」
「誰にも、言っちゃだめよ」
「うん……」
 キルルが念を押す理由はよく分からないのだが、
「わたし、キルルと暮らすの、嫌じゃないわ」
 ついぽろりとこぼれてしまったこの言葉は、いつかアヒムの従弟に提案されて以来、悪くはないとユニカが思っていたことだった。
 アヒムとキルルだけで仲良くされるのは嫌だけれど、三人でなら。時々やって来るアヒムの従弟と四人で暮らすのもいい。

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