天槍のユニカ | ナノ



その先へ、(2)

「閲兵式を行わなかったことは事実です。お詫びし、今後の職務に精励することで陛下のご不信を解きたく存じます」
「そなたもだいぶふてぶてしくなってきたな」
 王の口の端には笑みが浮かんだが、それがディルクを許すものではないことくらい分かる。
「よかろう。ただし、二度はない。次にこのようなことがあれば公国へ戻ってもらう。職務より私情を優先する者は、我が王家には必要ない」
「は……」
 ディルクは三度頭を下げ、追い払われるように王の執務室から退出した。
「殿下……」
「分かっている。悪かったな、いらぬ苦労をかけた」
 決まり悪そうに頷くラヒアックをなだめ、ディルクは次の目的地へ向かう。
(「必要ない」か……)
 あの王が言うからには、冗談ではないだろう。そして、ディルク以外に近い血縁の後継者がいない上で口にした王の覚悟と、怒りの深さが窺えた。
 後悔していないとはいっても、王にそこまで言わせるつもりはなかったのだが。それだけ王が自分に大きな期待を寄せているということであり、彼がユニカのことについて過剰な反応を示すことの証左でもあった。
 王の憤りの原因の一つは、ディルクの立場の弱さにある。外戚がいないため絶対的な味方といえる貴族がいない。今のところ王に最も近い血縁者として王太子に指名されたが、政治的な力が弱ければそれを覆される事態も起きないとはいい切れないのだ。
 それゆえ、王はディルクに王太子に相応しくない行いをするなと戒める。誰からも文句をつけられることがないように。
(だが、それが陛下の弱点でもある)
 王には、後継者に指名できる人間がほかにいない。
 ディルクが失脚すれば、次に太子に指名されるのはエイルリヒ。しかし、それには政治的な問題も多すぎるし、妹の実子ではないエイルリヒを王が受け容れることは心情的に出来ないだろう。
 だから今回のことも譴責一つで済んだ。王がそうせざるを得なかったとはいえ、ディルクが王に借りを作りっぱなしなのも事実。
 今後はこういうことがないようにしなければ。
 王にとって唯一の世継ぎと認められる立場を利用するのは、今ではない。そのカードを切るのは、王からユニカをもらい受ける時だ。

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