天槍のユニカ



その先へ、(3)

     * * *

 一方、ユニカも城に戻っていた。ほんの数日出かけていただけだというのに、西の宮にある部屋のなんとくつろげること。
 とはいっても、以前とは異なり西の宮自体が賑やかで、ユニカもだらだらと朝寝を楽しむわけにはいかなくなっていた。
 ユニカの世話を担当する侍女はこれまで通りディディエン、フラレイ、リータの三人だが、ユニカの存在が公に認められた手前、王の客人にふさわしい暮らしをしなくてはならないとかで、西の宮に専属で仕える新しい召使い達が何人も配属されてきたそうだ。日頃彼らと顔を合わせることはほとんどないようだが、雪が消えつつある庭園には庭師と思しき者達がうろついていたし、夜には廊下という廊下に火が灯されている。
 人の出入りが増えたということは警備も必要になるということで、近衛に属する兵士もそこここに立っていた。ユニカの視界へ入らないように……という配慮はされているらしいが、まったく目に触れないのも不可能だ。
 庭園を巡回している近衛兵の背中を横目に見送ったあと、ユニカは目の前のケーキをもう一口食べた。表面に塗りたくられたあんずのジャムは甘いが、後口には生地にたっぷりしみこませたリキュールの酒精が爽やかに残る。
 大変おいしいこのお菓子は、エルツェ家の兄弟からのお土産だった。
 アルフレートもしばしケーキに夢中になっているし、カイはあまり甘いものが好きではないのか、ちょっと手を着けたケーキを放置してお茶をすすっていた。妖精がテーブルの上を横切っているような、束の間の静けさ。
 ユニカの籍をエルツェ公爵家へ移す手続きは、もう数日中に完了するとのことだ。カイはそれを伝えに来た、と不機嫌そうに言って、今日も青いリボンをかけたケーキを差し出してきた。アルフレートはディルクよりおおせつかったユニカの護衛を務めるためにきたらしい。兄上が意地の悪い顔をするから心配で、などと言って兄をいらつかせていることを、この子は知っているのやら。
 そして、このまま二人を追い返してはいけない、いただいたお菓子を広げてきちんとおもてなししましょう、とユニカに囁いてきたのは、どういう用があるのか分からないが毎日訪ねてくるエリュゼだった。ちなみに、カイとアルフレートも、昨日も一昨日もユニカのところへやってきている。

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