その先へ、(1)
第13話 その先へ、
月が明けて二月。
祝賀の空気はどこかへしまい直され、王城エルメンヒルデはひっそりとすらしていた。
そんな中、通常の職務へ戻った王の執務室には低い叱責の声が響いた。
「ばか者が」
いつになく厳しい、そして容赦のない王の視線を粛々と受け止め、ディルクは背筋に力をこめる。
「申し訳ございません」
「それは何に対する謝罪か」
「陛下よりおおせつかっていた職務を放棄し、ご期待を裏切りました」
今日は公国から異動してきた騎士達の配属手続きが完了する日だった。その報告に来たディルクは、話が済んだあと近衛隊長のラヒアックとともに引き留められ、過日の閲兵を行わなかったことを問い糾された。
過日とは、エルツェ公爵家に逗留したあの日のことである。予定になく滞在を延ばしたため、ディルクは近衛長官が行う閲兵を一日すっぽかした。即日ラヒアックが王に報告したのだろうが、今日、人目のないところで叱られたのは王の配慮だろう。ディルクのためというより、政治的な。
「そなたには誰よりも正しき道をまっとうする責務があると言ったはずだ。国を導く者として臣下、民の規範となるようにとも。あの時そなたは頷いていたが、あれは真(まこと)の心ではなかったということか」
「いいえ」
ディルクは否定し頭を下げることしか出来ない。王の沈黙が重く肩にのしかかってくる。
王がこれほど怒りをあらわにしているのは、ディルクの滞在先がエルツェ公爵家だったから――ユニカが関わっているからだろう。王はそれを口にすることなど決して出来ないだろうが、なぜ帰城が遅れたのか、本当は問い詰めたくて仕方がないはずだ。
しかし、問われないのならディルクも説明するつもりはなかった。
閲兵式を放り出したことを叱責されるのは当然だと思うが、後悔はしていない。ユニカやパウル、エリーアスの顔を思い浮かべながら視線を上げる。
王にはディルクのそんな心情も伝わっているのだろう。だから余計にいらだっている。
「弁明もないとは結構なことだ」
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