天槍のユニカ



冷たい夢(6)

 ところで、納屋から出てきたユニカは芋を抱えて扉を閉めるのに難儀していた。手がふさがっていて扉の取っ手を掴めないのだ。
 そうしているうちに背後から大きな影が覆い被さってきた。
「籠でも持ってこないとね。両手でものを持ったまま転んだりしたら怪我をするよ」
 教会堂で行われていた会合から戻ったアヒムだった。納屋を閉めると、彼はユニカから芋を三つ取り上げて、器用に片手で持ってしまう。そして空いた手をユニカと繋ぐ。
 その温かさにほっとして、ユニカは頬を染めながら養父を見上げた。微笑み返されると照れくさくて、けれどももっと心が温かくなる。
 そして二人で居間へ戻ると、アヒムは部屋の中に吊された洗濯物を見て少し申し訳なさそうに笑った。
「キルルが来てくれてるのか」
「シチューを作るって」
「嬉しいね。手伝おう」
 手を繋いだまま向かった厨房では、キルルがバターを切り分けているところだった。
「アヒム! お帰りなさい!」
 彼女はアヒムに気がつくや否やナイフを放り出し、飛びかかる勢いで彼に抱きつく。アヒムはキルルを抱き留めるもののすぐにやんわりと身体を離した。
「ただいま。洗濯物をありがとう」
「ユニカも手伝ってくれたわ。お天気がよければよかったんだけど、雪が降って来ちゃって」
「そうか。でも今は止んでるよ。まだ積もらないだろうね」
「こんなに早く積もってもらっちゃ困るわ!」
 相手がユニカだったら決して見せない輝く瞳で、キルルはアヒムを見上げて笑う。
 そういう時のキルルは可愛く見えた。と同時に、やっぱりユニカの胸の中ではもやもやと煙が立つ。
 ユニカは二人の傍でなんとなく弾かれた気分になりながら手の中に残っていた芋をすりすりと撫でる。
 すると突然、キルルの声が低くなった。
「あのね、アヒム。寝室を掃除した時にちょっと気になったんだけど……」
「ああ、最近細かいところまで掃除の手が回っていなかったから、ちょっと埃っぽかった? 机周りとか、本も出しっぱなしで、」
「埃を払って全部書棚に戻しておいたわ。そうじゃなくて……ベッドに枕が二つあったんだけど……まさかユニカと寝ているの?」

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