冷たい夢(5)
「次は?」
「もうないわ」
「あら、そ。手伝ってくれてありがと。助かったわ」
笑顔も素っ気もない謝辞だ。キルルはふんぞり返るように胸を張ってユニカを見下ろし、肩口からこぼれてきていた太い三つ編みを背中へと追い払った。
「シチューも作っていくわね。洗濯籠を戻してきて。それから納屋に行ってお芋を四つ取ってきて。大きめのをね」
「……」
ユニカは返事をしなかった。キルルは構わず持参したエプロンを引っ掴んで厨房へと向かう。
おうへい≠ネんだから。新しく覚えたばかりの言葉でちょっとだけ、そしてこっそりとキルルをなじったあと、ユニカは籠を抱えて居間を出た。
キルルは、アヒムより六つ年下の幼馴染みというやつらしい。赤子の頃に火事で両親を亡くし、先代の導師や村長に面倒をみられて育ったとか。
彼女の左頬から首筋にかけての広い範囲には、大きな火傷の痕があった。両親を亡くした火事で負った火傷だ。もうずいぶん時間は経っているが、肌は今でも引き攣れたままで赤茶けていた。キルルはもとが色白なだけに、その傷跡はとても目立った。
しかし、キルルはそれを隠していなかった。長い栗色の髪は大きな三つ編みにしてまとめていて、前髪もさっぱりと短いから火傷の痕は少しも隠れていない。
高価な白粉(おしろい)でもなければ傷跡は隠せないから諦めている、と彼女は言う。が、また別の人から聞いた話では、アヒムが隠さなくてもいいと言ったから彼女は堂々と火傷の痕を見せているらしい。
キルルはアヒムのことが「好き」なのだそうだ。これも、大人のお喋りを盗み聞いた話。
それを聞いた時、ユニカはなぜか胸のあたりがもやもやした。
ユニカだってアヒムが好きである。キルルと同じ気持ち。仲良くすればいいだけなのだが、やはり何となくもやもやする。
それでも、さばさばした彼女の性格は嫌いではない。ユニカに対しておうへい≠セとは思うけれど、まめにアヒムの家を訪れユニカには出来ない家事をやってくれるし、料理上手だったりするのもある。
彼女が家のことを手伝ってくれるのをアヒムもありがたがっていた。
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